43日目 アンケートにくっついたペグシル

「よろしければこちらアンケートにご協力ください」


 こんな声で目が覚めた。

 加速度を感じる。人から人へ、ひょいっと渡された時のような感じ。

 今日の俺は、何かに引っかけられている。人間でたとえるとするなら、膝をずっと折りっぱなしで、鉄棒とかにかけられてる、そんな感じだ。別に宙吊りになってしんどいとかそういうわけじゃないんだけど、身体が感じる感覚としては近いものがあるって話。

 その、引っかけられているものごと渡されたのだろう。


「あ、はーい」


 だるさを隠さない女性の声がする。わかる。アンケートってめんどくさいよね。

 たぶん俺は、アンケートによく引っかけられてる、プラスチックの細い棒に鉛筆の芯だけついたみたいな筆記具になっているんだと思う。大きさと状況証拠的に。よくよく考えたら背中にずっと接してるの紙だもん。たぶんそう。


 ネイルをした指が俺をつまみ、紙から取り上げる。

 さーて。そもそもここ何のお店なんだろ。どんなアンケートなのかな――そんな風に俺がワクワクしていると。


 俺は、紙から取り外された瞬間、紙に引っかけられていた。


 よりによって生殺しパターンかよ! 今日は文字読めて退屈しないと思ったのに!

 あの神の野郎、絶対許さないからな。いつかぶん殴ってやる。今日は無理だけど。


 ◇ ◇ ◇


 つまり、こういうことだ。

 今日の俺はおそらく、「アンケートにクリップ部分で引っ掛かった筆記具」に転生しているのだと思う。


「ただいまご利用者様向けにアンケートをしておりまして。ご協力いただくとクオカードプレゼントのチャンスもございます」


 あー、あるよね。そういうの。何のお店かはわかんないけど。

 俺がつまみ取られる。意識が飛ぶ。


「大学の卒業論文で……よろしければ、簡単なアンケートにご協力いただけませんか?」


 あ、そういうのもあるんだ。大学生って大変なんだな。

 協力者が現れたらしい。意識が飛ぶ。


「よろしければこちらアンケートとなっておりまして。お待ちの間にご回答いただけますと幸いです」


 ともかく。

 こういう具合に、概要はわかるんだけど詳細を聞く前に俺が別のところに行ってしまうパターンを、生殺しパターンと命名したい。俺は娯楽や情報に飢えてるんだ。ちょっとはよこせ。


 ……なあ、神様。どうにか、ちょっとくらい、操作できないのか?

 できたら俺、そろそろ人間に転生したいぞ。

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