18日目 さるかに合戦の柿

 目が覚めたら、宙吊りになっていた。

 頭の上から引っ張られている感覚がある。風が吹くとぷらぷら揺れてこわい。


 また木である。視界の中には葉がいっぱいある。広葉樹だ。割とつるつるした葉っぱだ。

 枝には、葉とともに緑色の実が揺れている。小さく、ちょっと扁平な球みたいな形をしている。日光が当たっている方ではオレンジ色になった実もある。へたの部分がちょっと分かりづらかったけれど、ここまで観察できれば俺には分かる。

 これは、柿の木だ。


 柿の木に宙吊りにされて、揺れている何か。

 ……まあ、十中八九、柿の実でしょうなあ。熟れてるか、未熟かは分からなそうだけど。

 今日も神をぶん殴ってやるのは難しそうだ。「投げつけられてぶつかる」とかならワンチャンない? ……ないよな。そんな逸話ないもんな。


 ◇ ◇ ◇


 空がやけにきれいだなーと思いながらゆらゆら風に揺られていると、木の下で変化があった。妙にデフォルメチックでデカいカニが、ご丁寧に横歩きでやってくる。

 ……ん?


「やい、やっと立派な実をつけたな、柿の種! たっぷり食べてやるからな!」


 上の方、熟れた実の方を見てぴょんぴょんする、日本語を話すデフォルメガニ。なんかこんな童話聞いたことあるぞ。


「待ってろよ!」


 威勢よく言ったかと思うと、幹をよじ登ろうとするカニ氏。デフォルメされた足ではうまくバランスを取れるわけもなく、足をかけたそばから横に倒れてしまう。そらそーなるわ。

 何度か試しているうちに、どこからともなくサルがやってきた。いかにもずる賢そうな顔をしたサルである。こちらも日本語で、こんなことを言う。

 ……これ、俺の知ってる童話の世界だな?


「おーうカニ、お前、柿が取れなくて困ってんのか? しょうがねえなあ。オレが取ってきてやんよ、待ってろよ」


「サル……お前! ありがとう!」


「いいのよいいのよ。任せとけって」


 そう言うと、サルはするすると木を登ってくる。まあ、サルだからね。そりゃ得意だろう。

 俺のなっている枝を超え、日当たりのいい方――熟した柿の方に行き、そして良い色のものからむしゃむしゃと食べ始めた。


「おーいサルー! お前、自分ばっかり柿を食いやがって! 俺にもくれよー!」


「今はオレが食べてるんだ。ちょっと待てよ」


「そう言って全部食べる気だろー! 俺にもよこせー!!」


 木の下で騒ぐカニに辟易したのか、サルが枝を少し戻ってから下を向く。


「うるせえなあ……」


「よこせー!!」


 サルは手近にあった柿の実――つまり、に向けて手を伸ばした。


「お前はこれでも食ってろ!」


 サルが全身の力を込め、カニに向けて柿の実を投球する。

 クリーンヒット。

 はちゃめちゃな威力の投柿を食らったカニは、その場で泡を吹いてぶっ倒れた。俺も半壊して意識が薄れていく。


 どうやら――やっぱり――この世界は、『さるかにがっせん』の世界のようだ。

 ちゃんと復讐するんだぞ、カニの子たち。

 ……俺の分まで。

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