16日目 早押しボタン

 引っぱたかれて、目が覚めた。


 いや、引っぱたかれるという表現は正確じゃないかもしれない。頭をぐいっと押されて、中身を――脳みそをぐらぐら揺らされるような、そんな感じ。俺の中がびりびりして、電気信号が送られていく。

 ……電気信号?


 疑問を抱いた次の瞬間、ポーンという音が辺りに響く。電気が俺の体に流されて、ぱっ、ぱっと熱を帯びる。俺を叩いた奴――俺の頭から手を外して正面を向いている、髪型をばしっとキメた男だ――が、「っしゃあ!」とガッツポーズをして、そして、


「ルーヴル美術館!」


 答え・・を、叫ぶ。


 ピポピポピポーンと、正解の効果音が響く。MCらしき声が、俺に手を伸ばす男に水を向ける。


「やー、よく分かりましたね」


「つい最近行ってきたばかりで。どの絵も見覚えがありました」


「素晴らしい。得点はこうなりました!」


 ……クイズ番組?

 ……早押しクイズ?

 ……俺が叩かれて、電気信号が走って、鳴って、俺に電気が流されて、こいつが答えて、正解になった?


 どうやら今日の俺は、早押しボタンになっているようだった。

 神をぶん殴るどころか、誰かも分からん芸能人にぶったたかれまくることしかできない。ぐぬぬ。



 俺を押している奴は、クイズが強かった。俺も分からないくらいのところでボタンを押して、俺の分からない単語を言って、正解になる。そういうことが多かった。

 押される刺激にはそのうち慣れたし、そうやってくると周りを見る余裕も生まれた。隣の女性芸能人は分かりもしないのにボタンを叩きまくっている。あっちじゃなくてよかったわ。


「それでは、今週の『Quiz King』はインテリ男性俳優チームの勝利! また来週もお楽しみに!」


 収録が終わった。テレビ番組の収録ってこんなんだったんだな。

 「おつかれさまでしたー」とスタッフの声がして、ひな壇にいた芸能人達が楽屋に戻っていく。おい、足元の水忘れて――違うか、いらないから置いてってるのか。

 入れ替わるようにして、黒いTシャツ姿でポーチを腰に巻いた人がひな壇に上がってきた。スタッフのようだ。……ん? これ、俺片付けられちゃう? 電源切られる方が先かな?


 そんなことを思っているうち、俺の意識は暗転し――


 ◇ ◇ ◇


 また、引っぱたかれて、目が覚めた。


「◎♪×△$¥○&%#?」


 ……ん?


「※〒$◎☆〒」


 ……んんん???

 おそるおそる、視界を確認すると――


「⌘%#♪¥○」


「〒$★※※」


 8本の足を生やした宇宙人が、クイズをやっていた。


 ……地球限定ってわけじゃ、ないんだね。

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