第12話

7月6日のことであった。


場所は、家のダイニングにて…


テーブルの上には、白いごはんとみそしるとアジの開きときんぴらごぼうとひじきが置かれている。


テーブルの真ん中にはたくあん漬けが盛られている大皿が置かれている。


食卓には、アタシとダンナと義父母と義姉の5人がいた。


読みかけの中国新聞をひざの上に置いた義父は、にこやかな声で義母に言うた。


「そうだ、矢掛町(岡山県)のマスザキさんの家の長男さんが先月の大安吉日の日曜日に(恋人)さんにプロポーズをして、(恋人)さんからOKをもらったよ。」

「あらまあ、おめでたいわねぇ…マスザキさんの長男さんは36歳よね…やっとマスザキさんの家に春が来たので、ご夫婦も大喜びねぇ。」

「そうだな…思い切って、お祝いをふんぱつしようか?」

「そうねえ…」


このあと、義母は深刻な声で義父に言うた。


「マスザキさんの長男さんのプロポーズ祝いもいいけど、ひなこの結婚はどうするのよ?」


義母が義姉の結婚問題を口にしたとたん、義父が激怒した。


「またひなこの話か!!」


フンガイした義父は、読みかけの新聞に手を取りながら『朝からその話はせんといてくれ…めんどくさい!!』と言うたあと新聞を読み始めた。


義父は、新聞を読みながら『なでしこジャパンは勝ったかなァ…今日のカープの先発は…サンフレッチェはホームゲームだったかな…』などとのんきな声で言うた。


義母は、煮え切らない声で義父に言うた。


「あなた!!サッカーやプロ野球の心配をしているヒマがあるのだったら、ひなこの結婚の問題を真剣に考えなさいよ!!」

「ひなこの結婚問題を持ち込むなと言うただろ!!」

「あなた!!ひなこをいつまで独り身にさせておくのよ!?」

「ひなこがほしい白馬の王子さまは待っていれば来ると言うただろ!!」

「それじゃあ、ひなこにはおむこさんは必要ないと言うことね!!よくわかりました!!」


激怒した義母は、席をけとばしたあと食卓から離れた。


ワシは、今は朝の忙しい時間帯だからあとにしてくれと言うただけなのに…


なんで分かってくれんのぞぉ…


話し合いの時間は作るといよんぞぉ…


それをおまえらが『あとであとで…』と言うて逃げよるじゃないか…


義父は、新聞を読みながらひとりでひねていた。


食事を終えたダンナは『帰りは遅くなるから。』と突き放すような声で義父に言うた後、黒の手提げかばんとジャケットを持って、工場へ出勤した。


続いて、アタシも赤茶色のバッグを持って家を出た。


義姉は『おいしくないわ!!』と怒って、朝ごはんを床にぶちまげたあと、食卓を出た。


義姉の結婚問題が日増しに深刻になった。


それなのに、義父母は無関心である。


そんな中で暮らして行くのは、ショージキしんどいわ…


この時、アタシはダンナとリコンすると決意した。


2015年7月10日のことであった。


前夜に降った大雨があがって、この日は朝から雲ひとつない快晴であった。


日中の最高気温が40度近くまで上がった。


(山口県をのぞく)中国地方は、まだ梅雨明けの発表はなかった。


それなのに、この蒸し暑さはなんなのよ…


ところ変わって、岡山県井原市西江原町にあるアパートの敷地内にて…


梅雨明け前のむし暑さに耐えることができずに、少しでも涼しくしようと水まきをしているの主婦たち…


近所の公園で元気に遊んでいる子供たち…


いつもと変わらぬ午後の風景である。


その中で、はでなシャツとだぼだぼのデニムパンツを着て、サングラスをかけている義弟がふらりとやって来た。


義弟は、アパートに残したわが子を思って、戻ってきたようだ。


のんきにくちぶえをふきながら戻ってきた義弟は、玄関のドアを開けようとした。


その時、部屋の中からわが子のかぼそい声が聞こえた。


それを聞いた義弟は、カギをあける右手がこおりついた。


(チャリーン)


そのはずみで、部屋のカギを落とした。


「おとーさん…おとーさん…お腹がすいたよぉ…カレーライスが食べたい…ハンバーグが食べたい…おかーさんに会いたいよぉ…」


わが子のかぼそい声を聞いた義弟は、奇声をあげながらその場から逃げた。


この時、あいつ(以後、ダンナはあいつと表記する)の家庭が少しずつかたむきだした。


その日の夜であった。


あいつは『会社の関係者30人と居酒屋でパーティーをするから、今夜は遅くなる…』と家に電話で伝えた。


アタシも『夜のバイトがあるから晩ごはんはいらない…』と家に電話した。


晩ごはんは、義父母と義姉だけで摂った。


時計のはりは、深夜0時に10分前になった。


あいつは、家に『(一番下の後輩)がガールズバーに行きたいと言うたけん、少し帰る時間がずれる…』と電話をかけた。


家にいる義父は、受話器の向こうにいるあいつに『バカもの!!帰ってこい!!お母さんが心細い心細いといよんのがきこえんのか!?』と怒鳴りつけて、ガチャーンと切った。


そのあと、義父は『まともな仕事もせずにろくでもないやつだ!!』と言うてプリプリとはぶて(怒り)まくった。


そんな中で、アタシは赤茶色のバッグとフジグランで買うたキリン氷結(缶チューハイ)の500ミリリットル缶3缶と激辛スナック菓子が入っているレジ袋を持って帰ってきた。


アタシが帰ってくるなり義父は『遅い!!』と怒鳴りつけた。


怒鳴られたアタシは、義父に怒鳴り返した。


「はぐいたらしいわねクソバカシュウト!!あんたのクソバカセガレにウソつかれたけん、足りない分を必死になって稼いでいるのよ!!なんで分かってくれんのよ!?」

「何だその言い方は!?章介も午前様なら!!としこさんも午前様か!?何のために章介と結婚したのだ!?」


義父の言葉に思い切りキレたアタシは、キリン氷結の500ミリリットル缶が入ったレジ袋を投げつけたあと、よりし烈な怒鳴り声をあげた。


「ますますはぐいたらしいわね!!アタシにいちゃもんつける気ィ!?」

「キサマは、家の主にたてつくのか!?」

「あんたがアタシにゴロ(けんか)売ったんでしょ!!売られたゴロは買うわよ!!」


し烈な怒鳴り声でイカクしたアタシは、ものすごい怒りを込めてぶるぶると震わせながらするどい目つきで義父をにらみつけた。


真っ赤に充血しているアタシの目から、真っ赤な血で汚れた涙がこぼれた。


義父は『何だその態度は!!嫁のブンザイで家主に対してたてつくとは何ごとだ!?』と言うてアタシを怒った。


ふざけんじゃないわよ…


怒りに震えているアタシは、義父に背中を向けた。


その後、着ていた白のブラウスを脱いだ。


ブラウスの下は、黒のTシャツを着ていた。


義父は『なにをする気だ!?』と怒った。


アタシは、震える声で義父に言うた。


「ふざけんなよクソバカシュウト!!アタシが怒ったらどうなるのか分かっていないわね!!」


アタシは、黒のTシャツを脱いだ。


Tシャツの中から、黒のユニクロエアリズムVネックブラキャミがあらわになった。


つづいて、ブラキャミのストラップを外して、ブラキャミを下にずらした。


「何するのだ!?」


義父は、アタシにやめろと言うた。


しかし、次の瞬間…


ブラキャミの中から、恐ろしいはんにゃのイレズミがあらわになった。


「ヒィィィィィィ…」


アタシの背中に彫られているイレズミをみた義父は、悲鳴をあげた。


義父をイレズミでイカクしたアタシは、前を向いた。


アタシは、より恐ろしい目つきで義父をイカクしながら迫った。


Gカップのふくよか過ぎる乳房があらわになっている。


アタシは、近くにあった鉄パイプを手にしたあと、義父に迫った。


「あんたこそ何よ!?義姉が結婚できんことや義弟のデキ婚にはぶてているだけじゃないのよ!!それって全部アタシが悪いってこと!?アタシはあんたのクソッタレのセガレと結婚したくなかったのよ!!あんたたちが『心細い心細い…』と言うから、仕方なくこの家に嫁いだのよ!!アタシにいちゃもんつけたから、ぶっ殺してやる!!」


このあと、アタシと義父はドカバキの大ゲンカを起こした…


アタシは、義父の頭をもので殴った…


義父は、仕返しにアタシの顔を平手打ちで思い切りたたいた。


ドカバキの大ゲンカは、近所にも響いた。


近所の住民は『章介さんの家はどうしておそろしい嫁さんしか来ないのかしらねぇ…』とヒソヒソと話していた。


そして、7月11日の午後1時前のことであった。


岡山県井原市西江原町の義弟が暮らしていたアパートから北へ500メートル先にあるアパートで、深刻な事件が発生した。


現場に、岡山県警のパトカーがけたたましいサイレンを鳴らして入った。


義弟が、アパートの部屋で21歳の女性にするどい刃物をつきつけて、部屋に立てこもった。


立てこもり事件を起こした義弟は、警察に対してカレシを連れてこいと要求した。


人質になっている21歳の女性は、義弟が好きだったカノジョに新しくできたカレシの妹であった。


カノジョを取られたことに腹を立てた義弟は、カレシの妹に刃物を突きつけていた。


警察は、速やかに人質を解放しなさいと言うた。


しかし、義弟は『時限爆弾しかけてアパートを爆破してやる!!』と大声をあげてわめき散らした。


事件発生から約11時間後のことであった。


事件現場に、岡山県警のSATが到着した。


岡山県警は、SATに対して『容疑者を排除せよ。』と命令した。


到着から10分後であった。


「おにーちゃーん!!助けて!!ギャー!!ギャー!!」


部屋の中で、カレシの妹の叫び声が聞こえた。


この時、SATが叫び声をあげながら部屋になだれ込んだ。


人質になっていた21歳の女性が義弟にするどい刃物で一撃を喰らって、亡くなった。


義弟は、突入してきたSATの隊員たちに刃物をふりまわして暴れていた。


その中で、SATの隊員たちは義弟を取り押さえた。


そして、義弟はSATの隊員たちに外へ引っぱりだされたあと貼り付けにされた。


その様子がテレビの生中継で映っていた。


「容疑者排除!!」


次の瞬間…


(ズダダダダダダダタ!!ズダダダダダダダタ!!)


貼り付けにされた義弟は、SATの隊員たちのマシンガンで射殺された。


テレビの画面に、射殺された義弟がデカデカと映った。


それをみた義姉は、し烈な声で泣き叫んだ。


SATの隊員たちは、義弟の遺体が包まれているシートをぶら下げながら地区を行進した。


地区の住民たちは、SATの隊員たちにはくしゅを送った。


事件が解決してから8時間後のことであった。


岡山県警の捜査員たちが、義弟が暮らしていた部屋の捜索を始めた。


この時であった。


義弟のお子さまが、力尽きた姿で倒れていたのを捜査員に発見された。


義弟は、人質立てこもり事件に加えて児童保護義務放棄の罪と暴対法にテイショクする違反などで、岡山地検に書類送検された。


義弟のせいで、あいつは職場でいびつなパワハラを受けるようになった。


あいつは、そのことが原因で家に帰ってくるたび大声で怒鳴り散らした。


ガマンの限度が来たアタシは、あいつに八つ当たりをするようになった。


「あんたね!!職場でいびつなパワハラを受けていることに腹を立てて、上司の机に握りこぶしを作って思い切り叩いて、職場でめちゃめちゃに暴れて職場放棄したって本当なの!?明日からどうするのよ!?ブラブラした生活を送るわけ!?」

「当たり前だよ!!定時制高校に入学した時から20年間文句も言わずに働き続けたのに、けいすけが起こした立てこもり事件で何もかもパーになった…クソナマイキな若造をどついて職場を棄てた!!…と言うことで、明日から頼むよ…」

「キーッ!!もうガマンの限界よ!!アタシはあんたの妻とこの家の嫁をやめるわよ!!」

「ジョートーだ!!殴らせろ!!」


(ガツーン!!)


あいつは、アタシの顔をグーで思い切り殴つけた。


アタシは、震える右足であいつを思い切りけつり返した。


(ガーン!!ガーン!!)


「何しやがるのだ!?」

「あんたがアタシをグーで殴ったから仕返しよ!!」


アタシとあいつは、家の中で大声をはりあげて暴れた。


その翌朝、アタシはあいつの家から飛び出した。


この一件で、アタシはあいつの家の関係が気まずくなった。

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