10章 探偵と助手

「あの魔剣の力だったのですね」

そう呟くジャネット。

剣を収めつつふと、視線を魔剣の元へと泳がせる。

「ジャネットアイが逃しませんよ!」

そこには魔剣に群がる蛙たちの姿が。

「もう魔剣が消えないようにここで壊せ…ってジャネット!?」

てしてしと脚を振り回し動き回るジャネットの姿に思わずエレオノーラが叫ぶ。

蛙たちに放り出された魔剣はそのまま水の中へ。

「あーーー!!!!!!魔剣がーーー!!」

「とはいえ、下手に触ると危険ですし…」

「使い魔!」

ジャネットの懐からカエルがぴょこんと顔を出す。



「はぁ、やっと終わった〜」

魔剣を手に二人が地上へと戻る頃には、

大地に沈んだ日の陰が周囲を包み込んでいた。

周囲には巡回中の衛視や冒険者の姿もチラホラと見える。

「やっぱり大変な目に、合いましたね。エリオノーラさん」

ため息をつき辺りを伺うジャネット。

「いやぁ、それでも人助けになるなら、ね」

魔法の灯りの中にエリオノーラの笑顔が浮かぶ。

「ん、お前ら」

そんな二人の姿を見つけ衛視が声をかける。

「あれ?グレイソンさん!」

「やけにボロボロだな」

グレイソンは二人が出てきた穴に視線を送る。

「こんなところ…なるほどな」

「丁度良い所に。実は魔剣を拾いまして」

ジャネットが改まった様子で話を切り出す。

「そうだった!事件の犯人!魔剣だったんです!!」

「お?」

いつも渋いイケ親父は、エリオノーラの突拍子もない発言に虚を突かれ、奇妙な顔になる。

「もしかして、冒険者の死体を見つけたってのもお前らか」

合点のいった様子で顎に手を当てる。

「うん!死体が魔剣に操られていたんです!」

「触れると危険。ジャネットブレインがそう言っています」

「そ、そうか。うむ」

そう言うと、苦笑いを浮かべながら二人と道の端へと促す。


「ちょいと頼み事があるんだが…」

グレイソンは小声でこう切り出す。

「この手柄、俺に譲っては貰えねぇか?」

顔を見合わせる探偵と助手。

「なぁに、お前らに損はさせねぇさ」

「ま、まぁ…グレイソンさんにはお世話になったけど…」

確認するかのようにジャネットを見る。

「下手に名を上げないほうが良いでしょう。また冒険者に…とも言われかねませんし」

「それもそうね」

ジャネットの言葉に、エリオノーラは軽く頷いた。

「話の分かる奴らだぜ」

そう言うと、グレイソンはニッカと笑う。


「んじゃ、そういうことで」

不意に声を張り上げ、足早にその場を立ち去る衛視長。

「あ…」

「あはは。ま、いっか」



その後の動きは迅速だった。

グレイソンが呼んだ衛視と共に本部へと魔剣を届けた後、

日が変わる頃には二人は事務所へと帰り着いていた。


翌朝。

探偵と助手は疲れた身体を推して依頼人の屋敷へと足を運ぶ。


「娘がまた、世話になったみたいだね」

とは、ルミナスの父エルナスの言葉。

依頼解決の報酬もすでに、二人の前へと並べられている。

「いえ、これもまた世のため人のため」

「少しでもお力に成れたなら良かったです」

固いジャネットと対象的にエリオノーラは慣れた笑顔を見せる。

「また何かございましたら、いつでもお声をおかけくださいませ」

これまた慣れた動作で会釈もこなす。

「金のため」

ボソリと呟くジャネットを、

「人のため」

エリオノーラはコツンと小突いて、

二人は屋敷を後にした。


こうして、キングスフォールを騒がせた<ミッドナイトキラー事件>の幕は、

二人の名もなき探偵と助手によって、静かに降ろされたのでした。

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