4章 彼女の事情

「これによると、二件目は背後からの一突き…」

「手練ですね」

額を突き合わせて思案する二人。

「種族にも共通点はなしですか」

「三件目のノイラさんに話を聞きに行きませんか?」

ジャネットが先に顔を上げる。

「そうだね。あれ、ノイラさんって…」

首を傾げるエレオノーラ。

「白いモフモフの…」

「魔法使いの…」

「酒場で合ったことあるね。確か、私たちと同じ元冒険者って聞いたような…」

「それです!」

先日立ち寄った酒場。

そこでウェイトレスをしていたぽっちゃり系のタビットがいた。

「お見舞いも兼ねて行きましょう。好きなお花も持って」

「あそこの花屋で買っていく?」

「スミレの花は流石に…」

目の前でそんなやり取りをする二人を、迷惑そうに見つめる花屋の店員。


街はずれにあるノイラの家。

彼女の家族は快く二人を迎え入れてくれた。

怪我そのものは魔法で治ったようだが、大事を取って療養中らしい。

「ノイラさん、お見舞いに来ました」

ジャネットは傍らに何かを持っている。

「あら、エリオノーラさんにジャネットさん。いらっしゃい」

ベッドの上、ノイラの勤めて明るい声が返ってくる。

上半身を起こし、二人に向き直る。

「ジャネット、あれを」

とエリオノーラが言うと、ジャネットは脇に抱えていた包みをそっと差し出す。

紫色の小さな花が見えた。

ついでに鉢と、土も見える。

「わざわざありがとう」

ノイラの声は少しくぐもった。

「こんにちは。怪我の具合はどう? あぁ、無理しなくて大丈夫よ」

エリオノーラにはそれが、体調が悪くて辛いように聞こえた様だ。


花を受け取り、ベッド横の小さな机の上に置くノイラ。

「恥ずかしいわ~あたししくじっちゃった。もう年かもね~」

「確かに」

即答したジャネットの声が聞こえなかったようにノイラは続ける。

「怪我は大丈夫よ~。大事を取ってこんな感じだけど」

はははと笑ってみせる。

「ノイラさんの命を狙うとは、私、許せません」

「相変わらず固いわね~ジャネットちゃんは」

ノイラがニコリと笑いかける。

「思ったより元気そうで安心したわ」

とエリオノーラが嬉しそうな表情を見せる。

「そうね~あたしが狙われたのは偶然だと思うけど、でも、あたしで良かったわね~」

「「偶然?」」

二人の声が重なる。

「ほら、殺人事件が二件も起きてたから、夜は気を付ける様にって連絡が回ってきてたじゃない」

「でもあたし、ちょっと過信してたわ。自分に。夜中なのに一人で帰っちゃって」

話し続けるノイラの様子を見守る。

「周りに人気もなかったし、ちょうど狙いやすかったのかも」

「なるほど」

エリオノーラは続ける。

「犯人は、一人でいるところを狙っているのね」

「顔は見ましたか?」

ジャネットが食い気味にノイラに尋ねるが首を横に振る。


昼を少し過ぎた頃。

二人は二件目の殺人現場へ。

ここは少し奥まった場所の様だ。

歩けばすぐに水路が見つかった。

スタスタと近づき、縁にしゃがみ込み水面に目をやるエリオノーラ。

その様子を見たジャネットは、彼女の姿のその先に違和感を感じ取る。

「何もないなあ・・・・」

「何言ってるんですか!あそこ!ほら!なにかありますよ!」

慌てて階段を駆け下りるジャネットと、それを追うエリオノーラ。

そこには、何者かが壁をよじ登った様な跡が残されていた。

それも、ごく最近。

「水路から、この壁をよじ登って…斥候の心得でもあるのでしょうか」

「え、そうなの?」

エリオノーラは壁をまじまじと観察するジャネットの様子をひょっこりと眺める。

「なーる、ほど」

壁の上を見上げる。


「水路かあ…確か魔術師ギルドに資料があったような」

「そう、それ!私も今言おうと思ってたんですよ」

「以心伝心だね!さ、いこいこっ」

水路の奥へと歩き出すエリオノーラの腕を取る。

「魔術師ギルドはそっちじゃありません」

「わ、わかってるもん」

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