第21話 水中の闘い

 水の中に引きずり込まれた事で、スレイは自分を湖に引きずり込んだ「水辺の悪魔」の全身が見えた。

 大きさは自分達と同じくらいで、リリと同じように、全身を鱗で覆われていた。頬にはエラがあり、指の間には水かきがついている。変異体だ。

 湖には所々水草が生えているほか、ひっくり返った小舟が沈んでいた。その水草にひっかるようにして、青い物が見えた。

 まずはそれを回収しておく。

 スレイは水面を目指して浮上しようとしたが、変異体がそうはさせじとばかりにスレイに抱きついて来て、沈んだ船の方へ泳いで行こうとする。

(あの船が住処か?住処にエサを持ち帰ってゆっくりと捕食する気か)

 息もそろそろ続かないが、水の中ではこの変異体に敵わないらしい。暴れるのもむなしく、足首を掴まれてスレイは船へと引っ張られて行く。

 血で反撃しようにも、水中だ。血は水に拡散し、上手く行くとも思えなかった。

(どうしよう。あ、まずい)

 耳鳴りがする。

 そして変異体は、船の下へとスレイを押し込もうとした。

 その時、その考えが頭に浮かんだ。

(分子構造に働きかけた結果が、燃焼であり、爆破だったのでは)

 その変異体の腕を、スレイは掴む。その考えがどういうものかなどわからない。ただサンが、

【そいつの体に触れて、分子に干渉しろ】

と言ったのだ。

 上手く頭が回らないのがかえって良かったのか。難しい事を考えずに、シンプルに、スレイはイメージした。

 急に変異体の腕がパックリと爆ぜるように割れ、放り出されたスレイは、湖底を蹴って水面を目指した。

「スレイ!!」

 水面にどうにか頭を出すと、セイとレミが手を伸ばして来た。

「変異、体」

「いいから、腕!」

「伸ばして!こっち!」

 頭が酸欠でガンガンとするのを感じながら腕を伸ばし、セイとレミに引き上げられる。

 と、またも足を掴まれた。

「ひいっ!?何!?」

「ゾンビか!?」

 セイがガンガンとその変異体の手を蹴ってスレイから手を離させると、一旦水中に入ったあと、変異体は水面に肩から上を出した。

 そして威嚇なのか、歯をカチカチと鳴らせてこちらを睨む。

「何だこれ!?」

「変異体らしい。下に石があった」

 スレイは息を整え、深呼吸すると、変異体を見た。

 レミはすっかり怯えて縮こまり、セイは水際から離れた事で安心したのか、

「ここまで来やがれ」

と気を抜いていた。

 と、いきなり変異体が飛び上がり、セイに飛びかかるようにジャンプして来た。

「ぎゃあ!?」

「嘘お!!」

 セイは驚いたものの、反射的に変異体を蹴って襲撃から逃れた。

 変異体の方は草の上に落下し、四つん這いになると、そこからスレイに跳びかかる。

「スレイ!」

 スレイはその変異体の顔を片手で受けると、イメージした。

「ギャッ!?」

 頭が爆ぜ、その場に力なく落ちる。

 セイとレミは、呆然とするようにそれを見ていたが、変異体を突いて動かない事を確認した。

「死んでるぜ」

 スレイは湖底で見付けた石をその上に置き、石の上に手を置いて、変異体ごと燃やした。

「スレイ、血は?」

 レミが言うのに、

「それが、ちょっと誤解だったみたいで。ええと、分子と電子に、なんだっけ」

「いいから、とにかくここを離れるぞ」

 3人は薄明るくなってきた空の下を、荷物を背負ってそこから離れた。



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