※16 翻弄される『団長様』(※はR18シーンあり)
魔術師団長ジェインス・クート・ロアンがいきなり我が騎士団を訪ねてきてから一週間が経った。
何がどうしてそうなったのかは全然分からないが、どうやら彼に
「――1,2,3,4……そこでターン! お上手ですそのままステップを踏んでください。はい1,2……笑顔が固いですよ。貴婦人らしく優雅さを忘れずに笑顔を絶やさないで!」
「はぃい!」
傍から飛んでくる指示に従いクルリとターン。
私の動きに合わせてふわりとドレスの裾が優雅に舞う。
普段は絶対に履かない恐ろしい高さのヒールに足を取られまいと苦戦しながら、私は今絶賛ダンスのレッスンに励んでいます。何故かと言うと。
「おはようございます。今日はいい天気ですね。絶好のダンス日和です。というわけで、今日はダンスレッスンですよ。ああご心配なく、副団長のユリシス殿には事情を説明してあります。では行きましょうか」
――朝一番に私の部屋を訪ねてきた麗しき
今振り返っても本当に鮮やかな手つきだった。
抵抗する間もなくジェインスに横抱きにされ部屋から連れ出され、お付きの者が手際よく馬車の扉を開け、颯爽と乗り込んでいったのだから。
生まれてこの方されたことはないけれど、誘拐される時の気分はあんな感じなのかもしれない。
――いや、そうではなく。
「ていうか、なんでダンスなんですか!? いやそれよりも、この状況はなんなの!?」
朝の出来事を振り返って現実逃避していた私はふと我に返り、ステップを踏んでいた足を止め、叫んだ。
途端にピアノの音が止み、ジェインスがキョトンとした顔でこちらを見返してくる。
「おや、申し上げていませんでしたかね? 魔術師団と騎士団との合同調査の件、その一環ですよ」
「その件は聞きましたけど! それとこのダンスになんの関係があるのですか?」
「パーティの招待状をお渡ししたでしょう。そのパーティで踊るためですよ。今回のパーティは会員制である『
ニヤリと意地悪く問いかけてくるジェインスに、私はグッと言葉を詰まらせた。
一体どこからそんな情報を仕入れてきたのか。
確かに図星だった。剣一筋でろくに貴族の令嬢としての教養を治めて来なかった私はダンス音痴とでも呼ぶべき壊滅的な踊り下手である。
「……」
何も答えたくなくて無言でジェインスを睨めつけると、彼はますます笑みを深くしてこちらを見つめ返してきた。
「『
社交界でロアン公爵子息に関する噂は後を絶たないが、その中にかなりのダンス上級者だというものがある。女性をリードできる男性は非常に人気が高いので、夜会で彼と踊る栄光を賜った女性は自慢してまわるのだとか。
つまり噂されるほどジェインスは抜群にダンスが上手い。
「………………………………ご教授よろしくお願いします」
私は数分の葛藤の末、私情よりも仕事を優先することにした。
『香夜会』の会員制のパーティに潜り込むためにはどうしてもツテを得る必要がある。麻薬が出回っているかもしれないのだ。そのためにはプライドどうこう言ってられない。
渋々頭を下げた私の内心をジェインスはそれすら見通しているらしく、クスリと笑みをもらすと、コツコツと足音を立ててこちらに近づいてきた。
「ではある程度のステップは踏めるようになってきましたし、今度は私と踊ってみましょうか」
そう言って彼は私の手を取ると、ピタリと体を密着させてきた。
「え」
全く想定していなかった事態に私は思わず固まってしまった。しかしジェインスはそんな私を置いてけぼりにして、ダンスを初めてしまう。
「はい1,2,3,4……その調子」
「え、ええっ……!」
魅惑の美貌と熱い胸板が目の前に迫る。ステップを踏む度に密着した体が触れ合い、ジェインスを否応なく意識してしまう。
こんなの、耐えられる訳がない。
異性にろくな免疫のない私にこの状況はまさに目の毒だった。ましてや相手は絶世の美貌の持ち主。そんな相手から至近距離で見つめられたら、自然と高鳴ってしまう胸の鼓動を抑えることができないではないか。
「――ほら、集中して?」
「……!!」
ジェインスのリードでダンスが進む中、耳元で低い声で囁かれ、私の身体が硬直する。その瞬間ステップが狂い、ジェインスの胸板に私の胸が擦れ――。
「……ひぁん!」
反射的に身体が反応し、あられもない声を上げてしまった。即座に足を止め口を覆う。まさか身体がここまで敏感に反応するとは思わなかった。ジェインスを意識するあまり身体が感じやすくなっていたのだろうか。
本当に私はどうしてしまったんだろう?
「……」
なんとも言いようのない空気が流れる。
恥ずかしさに頬が赤く染まり、ジェインスの顔を見られなくて俯くと、頭上で彼が細く息を吐くのが分かった。
まるで自分の心を落ち着けているようなその仕草に、不審に思って私が顔を上げる。
すると、獣のように眼光を鋭くした
「……今日は
そんな可愛い反応をされたら、止まれなくなるじゃないか。
と、独り言のように呟いた彼はそのまま噛み付く勢いで私の唇を奪った。
「……んっ、んぅっ……」
一瞬にして唇を奪われた私は目を見開いて驚きを顕にする。その私をジェインスが鋭い瞳で見下ろす。情欲の色を濃くした瞳を見た途端、ドクンと心臓が高鳴った。
――どうしてこの瞳を見ると、こんなにも胸が高鳴ってしまうのだろう。
いつかも感じた激しく、優しい口付け。
彼から与えられるそれらは、全て激しくも優しく、そして切ないほどの甘さに満ちている。
何故それが狂おしいほど嬉しいと感じてしまうのか。
あっという間に口内に侵入され、差し出された舌を自分のものと絡ませながら、快感に薄れゆく思考でぼんやりとそんなことを思った。
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