2 さらなる追い討ち
「はぁっ!?」
妹が発した一言が衝撃すぎて私は思わず声を上げてしまった。
ユーフェルミナが驚いたように目を見開いてこちらを見つめてくるのにも構わず、私は隣で未だ蹲っている婚約者を見やる。
彼はさすがにまずいと思ったのか、俯いて顔を上げようとしない。
「……どういうことなの?」
言葉に怒気が混じるのを抑えられずに問えば、婚約者はビクリと身を震わせながら弱々しく答えた。
「君がずっと騎士団の方が忙しいのは分かっていたんだ。君は自分の仕事に誇りもあるし、やり甲斐も感じているといった。僕はそれを応援するつもりだったんだ……でも僕は」
「私が悪いんですのお姉様! お姉様と会えないと寂しそうに笑うルーク様を放っておけなくて……!!」
横から庇うようにユーフェルミナが割り込んでくる。そんな二人の様子に、私は幾分か冷静さを取り戻した。つまり、なにか。寂しさに耐えきれずユーフェルミナに手を出したというのか。
私という婚約者がいながら、未婚の年頃の令嬢である妹に手を出したと。
それも問題だが、妹も妹だ。はぁ、と思い溜息をついて、眉間に皺を寄せてトントンとこめかみを叩きながら私は呟いた。あまりのことにズキズキと頭痛までしてきた。
「軽率だったわね。せめて先に私に相談してくれていれば、穏便にルークと婚約解消はしたはずよ。それなのに……」
身体の関係を持っていた上に、子どもを身ごもっているという。
ことがお父様にも知れたらどうなるかわかっているのだろうか。普通ならば卒倒モノである。
ただでさえ心臓が強くない父に、余計な心配事をかけさせないで欲しい。
はぁ……と何度目かの溜息をついて、私は婚約者と妹に再度目を向ける。
今日は月に一度の模擬試合があってただでさえ疲れているというのに、とんだ厄介事に巻き込まれてしまった。早くお風呂に入って寝たい。
「それも含めて、お父様に報告するわ。とりあえずルークは今日はもう帰って。婚約破棄については改めて後日、話し合うことにしましょう」
努めて冷静に返したつもりだが、視線が冷ややかになるのは止められなかった。
私という存在がいながら、妹とはいえ他の女に手を出したのだ。これくらいは許されるだろう。
「ああ、分かった……。本当にすまない、フェイルリーナ」
「……いいえ。私も仕事に忙しくてあなたに構う暇がなかったもの。あなたがそんな思いをしているとは知らなかった。はっきりと言ってくれればよかったのに」
苦笑して、婚約者へと目を向ける。
それは、いたたまれなくなった場を和ませようとして、軽い気持ちで口にした言葉だった。
「それは……」
ルークはそこで言葉を切って、遠慮がちに口を開いた。
「君はずっと剣術一筋だったから……。だから、その……正直、女として見られなかったんだ……」
そして何を思ったかルークは顔を上げると、ずっと堪えていたものを吐き出すように私に向かってこう言った。
「君には女としての魅力を感じなかったんだ!」
――途端、その場は静寂に包まれた。
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