賞金稼ぎ

焼き芋とワカメ

1

 朝のカリフォルニア州ゴールドレイク市。

 周囲に不快をバラマキながらメインストリートを快走していた一台の高級車が、交差点の赤信号に止まった。近頃発売されたばかりのオープンカーのマキシマムスピードは、公道を走るには不要な数字を誇っている。

 その運転席に座るのは派手な半袖シャツのボンボン。どうせ超能力者成金だろう。両手には銀ギラ銀の指輪と腕時計。助手席と後部座席には、なんともまあ三人も女を侍らせている。当然、女も類は友を呼ぶという便利な言葉を引っ張り出せば済むような顔ぶれだ。しかめっ面を呼ぶのにこれ以上相応しいものはない。


 そこへ少し遅れて、その隣に不幸にも止まってしまった一台の高級車があった。こちらは打って変わって、悲しいかな若い男が一人乗っているだけ。身なりも、黒のジャケットはそこいらの店で容易に、何なら今すぐ買って来ることもできそうなものだ。


「見ろよ、レプリカだぜ。どうせどっかの小さな店がやってるサービスを利用したんだろうけど、見栄を張らずに潔く国民車に乗っておけよ貧乏人」


 そんな彼をボンボンが指をさして笑う。女たちも彼を見て笑った。若い男はそれを一瞥もくれてやることなく無視した。ボンボンの横に止まった車は一見すると高級車だが、実は彼の車はメルセデスベンツSSKのガワだけ被った模造品だった。中々いい出来のそれは、しかしエンブレムを見れば一目瞭然であった。

 だが彼がこの模造品に乗ってるのは、ひとえに見た目が理由なのであって断じて見栄ではなかった。大体、すぐに模造品と分かるものに乗ってどうやって見栄を張ると言うのか。しかも、彼は特段車マニアでもないから性能で劣るホンモノに乗る必要性とか魅力を感じないのだ。

 やがて信号が青に変わるとボンボンは右に曲がり、男は直進した。


 男は飛ばした。とっととさっきの気持ち悪いのを取っ払いたい気分だった。

 景色が風と共にどんどん後ろへ遠ざかっていく。もう速度は違反ギリギリのところまで上がっていた。

 だが、そこへ新情報を知らせるアラームが彼を冷静にさせた。

 俺はこんなところで怒るのが仕事じゃあない。彼は車を自動運転に切り替え、収納スペースからノートパソコンを取り出すと、いつものようにとあるサイトにアクセスした。

 そのサイトは一般の人間には存在を知られておらず、またアクセスすることもできないダークウェブ上の違法サイトで、薬物輸送の依頼や殺しの依頼、はたまたギャングの正式な構成員の募集なんてものまである。ここの仕事はピンハネが無く実入りが良いので、彼はよく利用している。


 新着の依頼、その内容は五人の超能力者の殺害、一人の無能力者の確保だった。

 依頼内容より驚くべきことは、依頼主がなんとあの犯罪シンジケート『キングス』だということだ。

 こんなに珍しいことは無い。キングスといえば、ここカリフォルニアのゴールドレイク市に本拠地を構え、超能力者を多数擁している。活動内容は武器麻薬の密輸密売から、強盗、拉致、殺人までなんでもござれ。最近では活動範囲をさらに広げ、世界数か国で活動しているという今最も勢いのある犯罪シンジケートの一つだ。

 しかし、キングスに限らずこういった組織犯罪集団は、仕事だろうが問題だろうが全て自分たちで解決するのが普通である。でなければ何のための組織であるのか。

 この手の犯罪組織を彼は嫌いだったが、これはただ事ではないと睨み、記載されていた番号に電話をかけた。


「依頼を見た。詳しい話を聞きたい」


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