8. 少数派を切り捨てる社会

怪人エモーションだ!


人間というのは、やはりよく分からない。

人間の生態を調べる実験は今日も続く。


君達は右利きか?

人間には利き手というものが存在するらしい。

その多くは右利きで、左手よりも右手で何かをすることを得意とするようだ。

しかし、多くはというだけで、中には左利きと呼ばれる人間も存在する。


右利きを当然だと考えている人間は多いようだ。

「左利きなんだね!」とか、いちいちうるさいぞ!

“右を当然としている”愚かな発言。まるで、差別ではないか。


駅の改札で、手をクロスさせ、左手でタッチをし、通過する人間の姿を見た事があるだろうか?

その人間のこれまでの“壮絶な人生”を、右利きは考えた事があるだろうか?



左利きは、まず食事に難があるように思われる。

食事中、箸や肘が右利きの人とぶつかるそうだ。

何故、左利き側がごめんなさいな気分でいなければならない。

これは、ラーメン屋『ことだま』でも座席を気にしなければならないな。

人間と人間の間に、アクリル板なんかを立ててしまうのはどうだ?

間隔をあけて座れば、そもそも肘問題は解決できそうだ。

そもそも、そんなに他者と近づきたくない。距離をとろう。


ホテルやレストランなどで、出されたものの配置をすべて変えなければならないという意見もある。箸やカップにいたるまで、配置は何もかも右利き用だ。

ホテルが側は、これがマナーで親切だとでも思っているのか?

そのフォークとナイフも、是非逆に置いてくれ!

お客様に失礼だぞ!クレームしたいくらいだ!

右利きか左利きかを、事前にお伺いして配膳もできないのか?

大多数に合わせればそれが正解だというのか?

少数派を切り捨てるのがこの社会だ。

いっそのこと、セルフにしてくれ。もう他人に触られたくない。

文句も言えなければ、言った方が非常識だとでも言われるのだろう。

マグカップの絵柄はいつもない。何故なら絵柄は反対を向くからだ。

この気持ちは、右利きの人間には一生分からないだろう。そうだ、気付きもしないのだ。


ハサミ、缶切り、ミシン、工具、調理器具…

驚くほどの使いづらさ。こちらは危険とも隣り合わせだ。

工具の使い方を解説されても、そのすべてが逆なのだ。

説明書がこの世に存在しない。教える側もその教え方が分からない。

図工も、技術・家庭科も消えてしまえばいいのに。

縫い物があんなに難しいことを右利きは知らない。

工作もしなくなるだろう。少なくとも他者よりうまく作れないからだ。

夏休みは工作か?わざわざ誰がやる。

ならば、もう研究をするしかないな。

そうだ!もちろん、人間の生態を調べるのだ!


音楽も嫌いになる。

何故なら楽器がうまく弾けないからだ。

楽器の構造は、難しい手のポジションを、絶対右手が担っている。

学校などで提供されるすべては右利き用だ。

リコーダーの低い『ド』を出す難易度は、右利きの奴らよりも上なのだ。

右利きに、この気持ちが分かるか!!

ピアノは残酷だ。

右手からはじまるドレミファソラシドを何度憎むことだろう。

ギターも指が思い通りに動かない。

そして、右手で練習する他者よりも、圧倒的に上達しないのだ。

音楽の成績は伸び悩むだろう。

スポーツも同じく、右利き用の用品がほとんどだ。

左利き用品は、値段が高くて少ないそうだ。

やってられないな。

もう、スポーツもやめてしまうだろう。


怪人エモーションは左利きなのか?という質問は一切受け付けないぞ!

怪人には利き手など存在しない。わたしはすでに両利きだ!!


右手でやることを強要されるこの世界で、左利きはとにかく練習する。

右利きが“左手で何もしない”その間に、左利きは右手を練習する。

つまり、右利きの人間が、いざ左手を使おうとした時、無能なほど何もできないのだ。

だが、左利きは、右利きの持つ左手より、はるかに右手が使えるのだ。

左利きは天才肌とか勝手なこと言ってんじゃないぞ!

右利きが左手を放置しているその間に、何倍も努力しているのだ!!

なめるんじゃない!!


生きていれば逃れられないのが、“文字”を書くという行為だ。

習字に関しては、その『とめ』『はね』を左手で表現できると思うか?

パソコンをうつのだって、マウスは常に右側にあるのだ。

横書きでノートに“文字”を書く場合、左手の小指側は必ず真っ黒になる。

しかし、縦書きは逆だ。右利きの人間よ、もっと真っ黒になれ!

横書きは右手、縦書きは左手で書き分ければ完璧だ。


“右手に直す”という行為で、右手で“文字”を書くことを選んで生きていく左利きもいる。

だが、今も左手で“文字”を書き続けていたら、もしかしたらもっと、綺麗な“文字”が書けたのではないかと思うことがある。


“文字だけの君”は、どちらの手でノートに“文字”を書いているのだろうな。



利き手を持つ人間よ、何故左手ではないのか?

教えてくれ!地球という大きな水槽に飼われている愚かな人間よ。


左利きで生きる。

その感情に名前をつけたなら、それはなんと呼ぶのだろう。

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