異世界 完全遭難のネリナル ~生命錬成サバイバル~ 白の章

chickenσ(チキンシグマ)

第一章 遭難開始

第1話 異世界 完全遭難 1

 一面に、広がる青。 これだけで、何を想像するだろう。

 強い風を感じ、自然を、体いっぱいに噛みしめる。

 季節が夏とくれば、もう、おわかりだろう。


「ぎゃぁぁああ!」


 そう。

 彼、21歳、社会人 製造業 布衣宮 沙羅(ゆいみやさら)は。

 上空から、パラシュートなしのスカイダイビングを、楽しんでいるのだ。  


「シャレになって、ネェェからぁぁああ!!」


 もちろん、シャレではない。


 まぎれもなく、Gパンとシャツ一枚に、安っぽいウェストポーチを強く握りしめ。

 推定、数千メートル以上、上空から落下しているというのが、現実だ。


「超展開すぎるだろうがぁあああ!! もっと、シナリオを考えたら、どうだぁぁああ!!」


 と、以外にも、まだ冷静さをたもつ、沙羅の、メンタルは、かなりのものだろう。


「俺がなにをしたぁああ!!」


何もしなかった。

それが問題なのだが。

 この際、沙羅が何をしたかは、この際どうでも良い。

 ワケではなく、沙羅が、楽しい、楽しい、スカイダイビングをしているのには、ちゃんした、理由がある。


※数時間前 沙羅の自室。 


自室を暗くして、ネットゲームに興じる彼の姿があった。

 彼の趣味はゲームである。

 というより、ゲームぐらいしかやることが、なかったのだ。

 特に何か、やりたいモノもなく、ソレではまずいと思いつつも、探しに行くために、大学に行く気にもなれず。

 工業高校卒業ともあって、そのまま通勤が楽な、工場に就職した。

子供に理想や、もうなくなった、昭和既存のレールがなくなった令和という時代。


 公園に行って、ゲームを片手に、すべり台に座り込む子供達。

 少し前まだ、ゲームをする子供達が増えたと、報道されるが果たして、配信動画やSNSを、食い入るように見るのと何が違うのだろう。

 その中、外で遊べといわれる子供の心境は、どうなのだろうか。

 スマホやタブレットを、小さいときから投げつけておいて、ぬけぬけと親は、言いのける。

 親の口からは外へ出ろと言われるが、その次には、外は危険だといわれ、汚れて帰れば怒られる。

 基本的に、子供を、家の中に閉じ込めていく家庭が増え、友達を連れくることすら、目くじらを立てる大人に、どんな気持ちになるのだろう。


沙羅は、この例外に、こぼれることなく、成長し。


 法律に縛られず、親が決めた、独善的なルールによって、育っていく。

 ぼっちメシ上等、である、お一人様を望む理由が、わからないと言うが果たして、その理由が、本当に、分からないのだろうか。


 社交の場は、学校のみになり、人と話すには、スマホの一つがあれば、今や百人で話せる時代だ。

 逆に言えば、昔のように、望まない人物を含める必要がないのだ。


 携帯電話は、早いと言い切ったその口で、電車に乗る小学生達のスマホを見て、一般的な親は、手のひらを返すのだろうか。


 変化に乗り遅れた「常識」は、もはや非常識である。


 情報は、知りたいこと以上のものを、善悪は関係なく、その的確さを持って、インターネットが、無料提供する。

 間違っていたとしても、それを見極める力は、自分で、つけるしかないのだろう。

 誰か聞いても、ろくに説明できないのだから。


 時間だけはある学生にとって、コレ以上の情報源もない。

 間違った方向に、と言うが、間違ったとは、いったい、何をさしている言葉なのだろう。

 可能性の塊である子供に、「常識」を押し付け、しつけと言い切って、押し付けることが、正しいことなのだろうか。

 何も知らないからこそ、分からないからこそ、今の大人以上に、社会情勢の良し悪しぐらいは、見えるというものだ。


 小学生にして、株を理解していたとしても、不思議じゃないのだ。

 人に会いに行かずとも、昭和の時代に比べれば、何でも、できてしまう時代だろう。

 外に出なければ何もできはしない。

 ソレは確かなのだが、その回数と面倒を減らすための、携帯電話なのである。


 だから、実際に一度、人と会うウェイトは、働く社会人より、重い。

 だが、平成・令和生まれと言うだけで、便利に、ゆとりと切り捨てられる。

 学校と言う、生徒と教師が作り出す、治外法権空間で、社会人が口にする「常識」が身についていない、ダメなヤツばかりだと。


 そして、ゆとり世代と呼ばれる、若者は思うのだ。

 「ゆとり」以外の世代がやったことは、消費税アップを嫌がり、無駄の切り崩しをした結果。

 違う形の税金が隠れて引きあがり、物価上昇と、手取り賃金ダウンを作り出し、子供・若者には、住みにくい環境を作り出したことである。


 給料アップを願った結果、仕事という遊泳プールは満員御礼。

 浮浪者ご苦労様、と言わんばかりに、あまりに酷い扱いが広がり。

 すくい取りきることが、できない結果として。

 企業負担が倍増し、消費以外の税も年金も引き上げられ、給料の手取りを、更に減らす結末を迎えた。


 その、あおりを、一番受けるのが、新卒だと理解しているのか、疑問である。


 確かに、仕事もできず、常識もない若者が、ぞんざいに扱われるのは、仕方ないかもしれない。

 だが、もうご年配になられた方々が若かった時代よりも、若者の首が絞められていると、理解してほしい。

 こんな明かりが見えない、「ゆとり」から吸い上げよう・押しつけよう企画に、布衣宮 沙羅が、自分の未来に、ため息を吐き出したのは、つい数分前の話である。


「マジ、無理ゲー」


 と、ワンルーム六畳一間の、家でつぶやく沙羅は、特に何かをしてきたわけでもない。


 社会人とはいえ、高校を卒業して、すぐに就職した先が製造業ともなれば、スーツなど着る必要もなく。 面接のときに使った、リクルートスーツは、そのままダンボールの中で、ホコリをかぶり。

 身なりも、それほど気を使っているわけでは、ない。

 電車に乗ってくる、どこかの高校生ぐらい子の私服と、何も変わらないだろう。


 そう、今、想像しただろう姿がそれだ。


 違うところを強いてあげるなら、沙羅と言う、キラキラネームのおかげか、肌が白く、セミロングほどの髪が、女性のようにキレイなことだろう。

沙羅には、男にとって、何一つ嬉しくないステータスが、割り振られているのだ。

 顔も、普通と言うラインから言えば、少し整っているだけだ。

 イケメンに見えるかどうかは、見た人の感性次第だろう。


 そんな沙羅が、学生時代に進学か就職か、後半年できめろと言われたところで、無理な話である。

 選択肢として、一人暮らしすら維持できない、賃金の就職を最初に切り捨て、進学を選ぶ。

 だが、奨学金という、払いきる算段が立たない借金に、ため息を吐き出した。


 選択肢を増やしたところで、打ちっぱなしは、決まりきっている。

 生涯年収だけを見て、選択肢の多さを見て、ソレは違うと言われるが。

 学校に通う当人は、結局のところ、負債に見合う結果は、得られないのだろう。

 だからこそ、大学四年という借金までした環境を整え、時間があるうちに頑張るのだが、パチンコのような一発勝負に、どれだけの意味があるのだろう。


 沙羅は、高校時代を思いだし。

 のらりくらりと夏休みをむかえ、両親に強く勧められ、使いもしない運転免許を取得するために日数を消費し、夏休みはもう、あと10日となり。


 そして、勉強したところで、どうしようもないと。

 大学に行こうが、就職しようが、思いが変わらないのなら。

 社会に出て、やりたいことなんてものが、見つかってから、大学云々を考えようと、あれから、早三年。


 学生時代に味わった、手付かずの宿題に追われ、終わったと思えば、明日は二学期が始まる、あの、気持ちを、はるかにこえた、社会人の憂鬱感は拭いきれず。


 昔に経験したハズの、一ヶ月の休みを思い返せば。

 夏休みの思い出が、ゲームと、教習所しかないことに、絶望し。

 パソコンの画面に現実逃避をしてみれば、あと数分で、九月一日になろうとしていた。

 そんな、時である。


 パソコンの画面上に、ポップアップされたメール通知が、目に入り。

 どこからの怪しいメールだと、アドレス拒否にのり出すべく、よく見てみれば。

 見慣れないアドレスの下に、実に、遠慮のない文章が並んでいた。


 質問です。

 ゲームなどの主人公の性別を選ぶ際に、あなたは、異性を選びますか?


 「ゲームのアンケートか?」


 いちいち、ネットゲームなどで、アドレスを登録する方が珍しい。

 沙羅は、ネトゲをやるとき、一つのアカウントを、いろいろなゲームで使っていた。

 だから、こんなメールが来たのだと、何の疑いもせず。

ゲームの、アイテム報酬欲しさに、画面のイエス・ノーのタブに、マウスで矢印を向かわせ。


 イエスをクリックした。 


 すると、だ。

 PCに繋いだステレオコンポから、間抜けなファンファーレが、耳いっぱいに響く。


「うっせ!」

当然である。

 敵の足音を聞き逃すまいと、ヘッドホンをつけているのだから。


 沙羅は、音量に顔をゆがませ、沙羅は、コンポの音量を下げるため手を伸ばした。


「ビビッたぁ」

 驚いたついでに、机に、足の指をぶつけたことを、誰も居ないというのに、誤魔化す一言に、なんの意味があるのか、不明である。

 

 沙羅が画面に、視線を戻せば、「おめでとう合格です」と、表示されており。

 何に合格したのかは、この際どうでもよく。

 沙羅は、イベントもなく平日が続く、寂しい社会人生活の、夏の最後の最後で、ぶっこまれたイベントに、目を閉じた。


「俺の、夏、最後の時間は、こんなイベントで、しめくられるのかぁ…」

 そうである。

 そもそも、山や海に気軽に行ける時期は、もう、過ぎているのだ。

 工業高卒の沙羅に、女友達なんてモノが、いるわけがなく。

 ましてや社会人になっても、廃ゲーマーの彼に。

 ゲーム上での友達、職場のご年配であらせられる、「先輩」と言うなの職場仲間以外の、人のつながりなどない。

 当然、趣味の話が通じるのは、ゲームとSNSの中だけだ。

 そもそも、夏はと言うが、盆休みすら実家に帰らず、家に閉じこもっているのだから、今以上の現実があるなら、教えてほしいものである。


 ディスプレイの右下を見れば、23時59分を示しており、画面上のメールは、夏の終わりまでのカウントを、刻み始めた。

 もはや、嫌がらせに思える演出に、沙羅は、うんざりした。

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