社会階級(カースト)逆転世界 ~ゴブリン>>>>ドラゴン の世界でカースト外の異世界人が低階級美女を救済する~

@pi-manman

第1話 転移

24歳地方都市の会社員である三国(みくに)マモルは途方に暮れていた。

休日出勤を終えてコンビニで買い物、家に帰る途中で小さな神社の境内を通過する際、立ち眩みがしたと思ったら回りの景色が一変していたのだ。


「夢を見ている、わけではないよな・・・」


かろうじて道のようなものが前後に続いているものの、周りは巨大な木ばかり。

ビルや電線のような人工物は何もない。


「これは、あれか。SF小説なんかでよくある、次元の裂け目を知らない間に通過した、とかか?」


先日見た、現代の軍隊が巨大モンスターと戦う映画を思い出す。

パニックである。


「ヤバイ、ヤバイ・・・」


自分が立っているのは道の真ん中。

車輪によると思われる、草が削れた2本の筋が前後に続いている。


来た道を引き返すも、30メートル近く戻っても何も起こらない。

神社を越えて、アスファルトの道路に出ていてもおかしくないだけの距離を移動しても、やはり何も起こらない。


仕事用の鞄とコンビニで購入した一日分の食料+αが手持ちの全て。

身を守るようなものも何もない。絶望だ。


しばし立ち尽くすが、このままでいるわけにもいかないのでその場を移動する。

生えている植物は・・・よくわからない。


マモルが名前を認識できるような植物ではない。雑草、や雑木林、という名で片付けられそうな植物だ。


歩き出して100メートルもいかないうちに物音が聞こえてきた。

蛇行する道の見えないところで誰かが言い争っているようだ。


道の脇の茂みに身を隠しながら様子を伺うと、そこには大小2台の馬車が止まっていた。

小さな馬車を取り囲むように10人の緑色の肌をした小さな人。普通に服を着て、腰には大きなナイフのようなものを吊るしている。

野蛮なモンスターということはなさそうだが、明らかに人間ではない。


なにやら話していると小さい馬車の扉があき、中から人が出てきた。

こちらの見た目は人間の女性のようだ。


(野党に襲われた・・・?)


なにやら話をしているようだが、内容までは分からない。

言葉が分からないのだ。


緑色の小人たちは小さな馬車の中に入り、そこから荷物を大きな馬車へと移動させている。

人間の女性はそれを見つめるのみで、特に抵抗しようという様子もない。

表情は諦めているように見えた。


マモルがもう少し近づこうとしたとき、足元の小枝が音を立てた。

小人たちが振り返る。


(見つかった!)


逃げなければ、と体の方向をかえると、そこにも一人の緑の小人。

先に発見されて回りこまれていたようだ。


腰のナイフを抜かれ、マモルは両手を上げる。

そんなマモルから小人は鞄を奪い取った。


「あっ・・・」


抵抗もできず、背中にナイフを突きつけられた状態で他の小人たちのところまで誘導される。

女性の隣に座るよう指図されてその通りにした。


「!“#$%&‘()」


となりの女性が小声で話しかけてきたが、やはり何を言っているか分からない。

マモルが首を横に振ると、女性は何やらつぶやいた。


「これでどうです?」

「!!」


次の瞬間に聞こえたのは日本語。だが、口の動きと聞こえる言葉が合っていない。


「翻訳魔術です。私はハイエルフですので」


ちらり、と女性はロングの髪で隠れた耳を出す。その耳の先は不自然に長かった。

こんな状況だが、マモルは一瞬感動してしまった。


(本物のエルフだ!)


興奮は一瞬、現状は何も変わっていない。


「貴方も災難でしたね。・・・あの様子を見てください。検閲とは名ばかりの強盗ですよ。権力を笠に着て」

「・・・」


荷物を運ぶ小人たちを見て悔しそうにするエルフ女性。

そんな二人を囲む小人の一人が馬鹿にしたような口調で話す。


「エルフやニンゲンごときがゴブリンと対等に取引できると思うのが大間違いだ」


荷物の運び込みが終わったようだ。

ひときわ偉そうな態度のゴブリンが近づいてきた。リーダーだろう。

二人を監視していたゴブリンに質問する。


「このニンゲンはどうした?」

「はっ。そこで我々を盗み見ていましたので捕縛しました」

「そうか。知られてしまったからには仕方ない。二人とも処理しろ」

「はっ」


処理というニュアンスだけでピンチだと理解した。


「ちょっと待ってくれ!」


マモルが抗議するものの、ゴブリンたちは意に介した様子がない。

ナイフを突きつけられ動けない状態のマモルの隣で、エルフ女性がつぶやく。


「私たち、消されるみたいですね。残念です」

「ちょっと、どうして諦めてるんだよ?エルフってゴブリンよりも強いんじゃないのか?」


一般的なファンタジーではゴブリンなんて雑魚中の雑魚のはず。


「???まぁ、魔術を使って一人は道連れにしてやりますが・・・???」

「道連れって・・・こいつら全員どうにかできないのか?」

「そんなこと、できるわけないじゃないですか」

「こいつら、そんなに強いのか?」

「いえ、弱いですが・・・???」


どうも話が通じない。


そうこうしているうちに、ゴブリンがみすぼらしいゴブリンを二人連れてきた。


「まずはニンゲン、お前からだ」


直後、みすぼらしいゴブリンがリーダーの手によって首を切られた。


「!!!」


急展開に驚くマモル。

切り捨てられたゴブリンは血を出す暇もなく、消滅した。まるで、そこには元から何もいなかったかのように。


「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・で?」


周囲の沈黙に耐え切れずにマモルが声を出した。


「!?どういうことだ?なぜ死なない!?」


狼狽えるリーダーは再度、もう一人のみすぼらしいゴブリンを切る。

結果は先ほどと同じだった。


「ニンゲンさん!契約を!」


ざわつくゴブリンたちを後目に、エルフ女性がマモルの手を握る。


「???あ、え???はい」


わけがわからず‘はい’と答えてしまったマモルは直後、胸に痛みを感じた。

マモルとエルフ女性を光が包み込む。


数秒後、光が収まった。


「ふふふ・・・」


エルフ女性が不敵に笑っている。

その様子を見て、ゴブリンのリーダーは二人を監視していたゴブリンの首を斬る。

やはり何も起こらない。


「理屈は分かりませんが、呪いが効かないみたいですね」

「貴様!」


「ニンゲンさん、復唱してください。鎖雷撃(チェインライトニング)」

「ちぇいんらいとにんぐ?」


マモルが疑問形で発した言葉の後、エルフ女性の両腕から雷撃が走る。


その雷撃はゴブリンたちを数珠繋ぎに貫通、ゴブリンたちは断末魔の叫びの後、消し炭となった。

その場で生き残ったのはマモルとエルフ女性、そして馬車を引く馬たちだけだった。


「・・・今度はゴブリンが消滅しない?」

「ええ。こちらの攻撃魔法の結果ですからね。むしろ、本来消滅するのは我々です」

「???」


マモルのつぶやきに対して、エルフ女性が答える。

やはり意味がわからない。


「貴方のおかげで助かりました。・・・話はここから移動してからにしましょう」


エルフ女性がなにやらつぶやくと、大きな馬車に積み替えられた荷物がそのまま元通りに小さい馬車に戻っていく。


(魔法だ・・・)


「ニンゲンさん、こちらへ」


感動しているマモルを後目(しりめ)にエルフ女性は荷物の戻った小さい馬車の御者台に上り、そこでマモルを呼んだ。

マモルが四苦八苦しながらエルフ女性の隣に座った直後、馬車は移動を開始した。

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