10
「やってみろ、余信夜」
そう言うと夜彦は自分の手首をもう一方の指で押さえた。
「この太さのところならば、入ることができる」
「え!?」
夜彦は、校長室の棚の隙間に手を入れた。隙間は10cmはないという感じだった。
手先から隙間に入り、肩から胸、頭も無理なく10cmほどの大きさまで凹んで、入った。体が全部入ると、すぐに出てきた。
こどもの頭は幽門というものがあって、母親からでるときは折りたたまれるそうだが、しかしすごい。
「ただ、隙間に入れたり出られたりはできるが、四方小さい穴には入れない。狭いところでじっとしてることもできない」
「ふむ……」
余信夜もやってみるが、コツがあるのか、たしかにやわからくなっているのは感じるが完全に入ることはできなかった。
「傷は治るのは早いが、そんなすごくというわけではない、あとは怪力で、多少早く動けるくらいだ……そう、目。目だけは本当に魔の力があるのか、相手にこの赤い目で睨むと一瞬動きが止まる」
余信夜はだまって説明を聞いていた。
「当時はこの力を軍事利用しようと無理矢理魔物を作り出そうとする輩がいた……戦時下じゃからな……それで私の研究は利用され、自分自身も吸血鬼だということもあって施設に入れられていた」
「大変……だったんだね」
そういうしかなかった。今の自分が生きてるのはその祖父がどうにか生きてこどもをもうけて、さらにそのこどもが生まれたということだ。
「施設は戦後国からの支援金がなくなって解散した。それでわしは平和利用のためにとある大学の研究室にいたんだが、ある組織に目をつけられてしまった、名前だけはわかっている。
”Six”だ」
「シックス……?」
「わしの命を狙ってることだけはわかった。だからわしは行方不明になったんじゃ」
おじいちゃんと普通の生活ができなかったのはその”Six”とやらのせいなのか……
「余信夜も”Six”に気をつけろ……わしと今日会ったことは家族には内緒にしてくれ、もし話すとしても数ヶ月経ってからじゃ」
「……わかった」
朝天造には話すつもりだったが、祖父の命のことを考えたら無理かもしれない。
元々死んだことになっているのだから。いつ殺されてもおかしくはないのだ。
「そうだ、朝天造は天使になったって……」
「それも伝えたかったことのひとつじゃ
朝天造は完全、完璧、絶対にない力を持って産まれて……いや”創造”された。神に等しい力じゃ。余信夜、何があっても朝天造を守れ!お前と朝天造は一心同体なんじゃ!
朝天造さえ覚醒すれば、すべてのことが……」
(神に等しい……!?一心同体?)
なんということだ。朝天造は冗談抜きに俺にとっては神だ。
だけど世の中にだって神なんて存在するのか?
朝天造と俺は年子だけどふたごでもない。性別も違う。なのに一心同体とは?
「どういう……」
どう聞いて良いのかわからないまま言葉をにごすと、夜彦は
「そろそろわしもまたどこかへ姿を隠す
朝天造を守れ
あと”Six”には気をつけろ」
帽子をかぶり直した夜彦は
「朝礼には間に合わなかったけど一時間目の始まる時間じゃろ……
さらば……しばしであるといいが……」
と、校長室から先に出ていった。ドアは10cmくらいしか開けずにするりと抜けていった。
俺は、おじいちゃんに会えたことが素直にうれしかった。しかし、”Six”のこと、おじいちゃんと暮らせなかったこと、朝天造のこと、いろいろが頭の中をぐるぐるかけめぐっていた。
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