46.誰? 2


 岩場近くの川付近で保護した女性は気づくなり暴れている。

 アイナさんの怪力?で押さえているから女性は思ったより暴れられていないようだ。怪我をしているようなのに元気がある。大人しくして欲しいのだけど。

 その口からは知らない言葉を発声している。だけども言葉の意味が分からない。

 錯乱して喚いているだけなのだろうか?

 これでは事情を確認する事ができない。


 エリナさん、アイナさん、僕の三人は困ってしまた。

 この女性をどうやって落ちつかせればいいのだろう?

 理解できない言葉を発音しているんだ。コミュニケーションの取りようがない。

 

「〇◇▲#◎!」

 

 ・・・何を話しているのか分からない。

 どうしたらいいんだ?



   (離して!)


 ん?

 

 

  (離してよ!)



 あれ?

 

『離してよ!助けに行かせて!言葉が分からないの!それともあなたはアイツらの仲間なの!なら近寄らないで!』

 


 ・・・分かる。分かるぞ。


 この女性の言葉が分かる。何故だ?

 いや、それは後だ。まず話をしないと。


『落ち着いて。僕の言葉は通じるよね?君の怪我も酷いみたいだ。このまま暴れると怪我も酷くなるから。まずは落ち着いて』


 伝わったかな。女性の動きがぴたりと止む。そして僕の方に顔を向ける。その表情は先程までの乱れぶりとは真逆の表情だ。


 驚き?恐れ?


 ともかく目を見開いて衝撃を受けているのは確かそうだ。今度は硬直したみたい。どうしてそんなに驚いているんだ?


『あなたは会長の奴隷じゃないの?』

『会長って誰?僕はそう呼ばれていないよ。そもそも奴隷じゃないし』

『キュメネ邑から私を捕まえに来たんじゃないの?』

『違うよ。どっちかというと敵対する立場かも』

『え?あなたは一体。・・・あれ?嘘・・・。お、お兄さん?なんで?・・どうして。あれ?そういえば私・・・』



 え?どういう事だ?誰の兄?

 その意味を女性に確認しようとしたのだけど気を失ってしまったようだ。

 よく見ると顔色が相当悪い。汗も噴き出している。これは僕にも女性の体調が悪いのは分かる。

 でもどうしたらいいんだ?

 そうだ。アイナさん。

 アイナさんは治療の知識はないのだろうか?僕の怪我の面倒を見てくれたんだ。僕より心得はあるはず。

 それを確認しようとしたのだけどアイナさんが不思議な表情で僕を見ている。それはエリナさんも同様だ。

 どうしたんだろ?



「え、えっと。二人ともどうしました?」


「どうしたじゃないわよ~。ケイくん。今どこの言葉を話したの?もしかしてこの女性と話ができたの?」


 え?あ、そうか。ちらりとエリナさんを見ると同様に僕に確認したさそうな雰囲気だ。

 確かに僕はこの女性と言葉で意思疎通をしていたんだ。不思議なんだけど自然と言葉が出たという感じだった。

 何でだ?

 分からない。


「・・・はい。そうみたいです。僕にも分からないです。何故か言葉が出てきたんです。二人には意味分かりました?」

「分からないわ。何を話しているのかさっぱり」「私も同じよ~」

「・・・そうですか。何故話せたのかは後にしましょう。この女性は誰かを助けたいために離して欲しかったみたいです。余程体調が悪かったのか、また気絶してしまったようですけど」


 二人は尚も驚いているみたいだ。エリナさんはフードで顔を隠しているけど多分驚いている雰囲気だと思う。

 気絶した女性が話した言葉をつかえたのは、僕だけみたいだ。エリナさん、アイナさんにとってはそもそも分からない言語のようだ。何故僕が分かるのか?説明ができない。

 失った過去の記憶が戻れば何か分かるんだろうな。くそ、もどかしい。


「とにかくこの女性は誰かを助けたいんです。でも何かの事情で怪我をしてしまった。それも痛みを忘れるほどに。詳しく聞きたくても気絶しちゃいましたけど」

「ええ。そうね~。ここは安全では無いから移動したいわね~。安心はできないけど、この女性は私達に敵対しないと思うのよね~」

「私も同意です。ソニヤさんも近い場所で発見しました。キュメネ邑に関係している女性ではないかと思います。他にも気になる事があります。私からも話を聞きたいです」


 全員同意で女性を洞穴に運ぶことにする。

 アイナさんは周辺の警戒と場合によっては排除。エリナさんはそもそも戦闘向きでは無いし、体力もない。

 僕はこの女性を背負うくらいなら多分大丈夫。そもそもこの女性は身長が大きいから背負えるのは僕しかいないのだけど。

 

 背負いながら足元の危うい岩場を歩く。思ったより重くない。口に出せないけど重く無くてよかった。背中の感触には困ってしまうけど。・・・柔らかすぎるよ。エリナさんのじっとりとした目が辛いっす。そんな目で見ないで。


「あの・・・何か?」

「いいえ。何も。女性を落とさないよう頑張ってね」


 その表情。何もなくないじゃないですか。もー勘弁してください。アイナさんまで・・・なんでそんな目するの?だって僕しか背負えないという結論だったじゃないですか?


「それとこれは別。状況としては仕方ないけど。気持ち的には納得していないの」

「は、はい。何もかも先送りにしてごめんなさい。後でゆっくり話しましょう。僕も相談したい事があるので」

「相談?突然ね。凄い気になるけど、後なのね?」

「そうしてくれるといいかな。ちょっと試してからになるんで」


 不安そうな顔にさせてしまった。具体的な説明はまだできない。今考えている事が実現するか次第だから。

 僕の異能に何らかの変化がおきたんだ。

 それは助けた女性を背負った時だ。

 体調の悪さや負傷した足の状態が何故か把握できたんだ。そしてそれを治癒する事が可能だという感覚まであるんだ。

 僕の異能の一つである”快癒”。これは僕自身の治癒に使う異能だった。それがどうやら他者にまで異能が使う事ができそうなんだ。

 まだ、できそうだと、いう感覚だけ。それをこれから背負っている女性に対して使ってみる。いきなりだけどできるという感覚がある。

 何故なら助けた女性の悪い部位が把握できているんだ。どうやら対象者に触れていると伝わってくるみたいだ。

 この女性は左の膝を挫いている。これは悪路でバランスを崩して痛めたのだろう。足首も悪そうだけど膝程では無い。

 それと内臓の活動が衰えている。十分な栄養を取らず寝る間も惜しんで歩いていたんじゃないだろうか。

 良くない部分の情報が伝わってくる。そして僕の異能で治癒する事が可能と伝わってくるんだ。異能の熟練度が上がったからかもしれない。

 背負ったまま歩いていても使えそうだ。まずはやってみよう。

 治癒可能な部位に僕の異能の力を送り込む。そんな要領だ。ゆっくりと治癒力を流し込む。

 歩きながらは少し難しいか。

 歩くペースが落ちたようでエリナさんに気づかれたようだ。

 僕は目でそのまま見ていてとお願いする。どうやら伝わったようだ。ゆっくりと治癒を続ける。

 思ったよりもすんなりと治癒が始まる。女性の症状は軽いのだろう。治癒はあっさりと終わる。もう悪い部位は無くなっている。気づいたら本人に直接聞いてみよう。

 治癒中と治癒が終わった後暫く意識が遠くなった。これが異能の反動かもしれない。これはエリナさんに聞けば詳細がわかるかもしれない。

 とにかく”快癒”の異能熟練度があがり、新しい使い方を覚える事ができた。

 これを使えばきっと上手くいく。

 出会ったときからなんとかしたいと思っていた事ができる。

 それもこれも助けた女性から事情を聞いてからだ。

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