27.ネルヤ邑の状況



 ソリヤ家の二人が周辺確認のため消え去った。

 それを僕はぽけーっと見ていたのだけどエリナさん、ソニヤさんはもっと驚いていたようだ。

 慌てたように説明を求めてきたんだ。

 それを宥めてまずは洞穴に入って休む事にする。まずは落ち着かないとね。僕もちょっとこんがらかっているし。


「僕も色々混乱しています。まさかあの二人が突然現れると思ってなかったので。まずは敵ではない事は伝えておきます」

「あのお二人はどのような知り合いなのです?そのう・・・どう聞いていいのか分からないのですが」


 言いづらそうに確認してくるエリナさん。

 ・・・そうだった。ソニヤさんには僕の事全く説明していないんだっけ。どう説明しようかな。


「詳細はいずれどこかで。彼女達はソリヤ家の本家の人達です。アイナさんとライラさんです。詳細は説明できないのですが僕の命の恩人なのです。ですが家の方針で僕を保護できない事になり二人ががこの洞穴を教えてくれたのです」

「ああ、そういう事ですか。承知しました。ではお二人には感謝しないといけないですわね。ソニヤさまソリヤ家はご存じですか?」

「存じております。この周辺の邑でソリヤ家を知らぬ家は無いと言っていいくらいです。ケイ様はソリヤ家の方とお知り合いだったのですか。驚きました」


 ソニヤさんは素直に驚いていたようだ。エリナさんも僕とソリヤ家の関係を知って驚いていたのか。

 何も知らぬ僕はソリヤ家の凄さを改めて知った。

 他の邑にも知られているなんて・・・改めて思う。凄い家なんだと。

 

「ソニヤさま。もしかしたらイキシ邑も協力してもらえるかもしれません。援助は多い方がいいですから」

「はい。ですがわたしはイキシ邑とはあまり縁が無かったのでどのようにお願いすれば良いか。見返りも必要となりますし。こうなりますと父に相談する必要があります」

「それは承知していますわ。ですがお聞きしている範囲ですと邑はあまり良くない状況だと想像します。言いづらいのですが反乱者達に占領されている可能性が高いのではないかと」

「上手く反乱を抑え込んでいる可能性もありますわよね?」

「聞いている状況ですとかなり可能性は低いのでは。邑長さまも危ないと考えたからソニヤさまを外に出されて救援をお願いしたのですよね?」

「・・・はい。従者達と一緒に出たのですが邑の中は大混乱で散り散りに。でも従者の誰かがネルヤ邑に向かっているかもしれません」

「それは考えづらいです。ネルヤ邑長と交渉するのであればソニヤさまがその場にいらっしゃるのが条件だと考えます。従者の方では話は進まないのでは。ネルヤ邑はそういう邑です。ですから従者の方々はソニヤさまを探されているのでは?」

「そんな・・・。では尚更わたしはネルヤ邑に向かわないと」


 エリナさんは言いづらいと言いながらも言う事は言う人だ。それはこの数日でもそれなりに分かってきた。そもそも時間が無いのだから余計な事で時間は使えない。

 伝える事ははっきりと伝える。必要な事だと思う。僕にはなかなかできない事だ。

 僕ですらソニヤさんの邑が緊急事態だという事は理解できる。だけど僕とエリナさんだけではソニヤさんの邑は助けられない。

 エリナさんの異能を使えば上手い方法があるかもしれないけど。それはエリナさんにとってはデメリットしかない。自身の能力を開示し、且つ弱点を晒すような事になるからだ。

 でも僕はそれを知っているという事に今更気づいた。

 これはエリナさんの僕に対する信頼と捉えていいのだろうか?僕を助けるために仕方なかったというのかもしれない。

 ともかくソニヤさんは一刻も早く邑に救援を送りたいと考えているはず。

 だからソリヤ家のあるイキシ邑の助けも借りられるのは良い事だと思うのだけど。貸し借りとか言われるとそうも行かないのだろう。簡単では無いんだね。

 本当に僕は何もできない。何も知らない。

 早く記憶を思い出さないと。もしかしたら僕はキュメネ邑の所属だったかもしれない。

 やはり思い出さないと。やっぱり僕のスタート地点はそこからだ。



「ケ~イ~くぅ~ん。中入ってもいいかな~あ」


 アイナさんの声が聞こえた。見回りは終わったと言う事かな。声の調子がいつものようだから安全だったという事なのだろうか?


「はい!大丈夫です。薄暗いですから弓矢をぶつけないよう注意してください!」

「ありがとう。大丈夫だよ~。それじゃ入ってからお話しようね~」

「了解です!」


 エリナさん、ソニヤさんに緊張感が溢れてくるのを肌感覚で感じる。

 多分だけどソリヤ家は知っているけど親しくは無いのだろう。この緊張感だとソリヤ家の実力を理解しているからなのかもしれない。

 敵対する事にはならないと僕は思うのだけど。

 程なく二人が入ってくる。アイナさんは手を振りながらにこやかに入ってくる。ライラさんは無表情に近い。でもそれが標準なのだから問題無いと思う。

 僕は安心しながら藁で作った席を二人に薦める。

 この場所はどこからか空気が抜けているようで焚火をしても煙くなったり苦しくなったりしない。だから今も焚火がユラユラと全体を照らしている。五人の表情が分かる程度には明るい。


「待たせた。周囲には誰もいない事を確認してきた。異能を使って確認してきたから問題無い。遺体等も発見できなかった。ソニヤ殿だったか・・・あなたの従者は周辺にはいないようだ」

「従者はおりませんでしたか。ご丁寧に調べて頂きありがとうございました」

「それで周辺安全は確認できたから~、私達の目的をお話するね~」


 僕はエリナさん、ソニヤさんを見て二人が頷くのを確認する。まずは話を聞いてから行動したほうがいいと僕も思う。


 話は主にアイナさんが話をしてくれた。

 

 アイナさん達ソリヤ家が所属しているイキシ邑は何者かに狙われているそうだ。

 異能持ちと思われる二人組の男が交渉をしてきたとの事。

 反応の無いため無視されたと判断し破壊行動をしたらしい。邑の壁を破壊。何名かの住人を負傷させた。聞いただけでも結構問題じゃないのかな?

 男達の要求は無条件降伏だった。

 その要求について邑長が招集して会議が行われたとの事。結論は未だに出ず周辺の邑の状況を確認するらしい。邑長が決定するんじゃないんだな。合議制か。

 他の邑の状況はすぐに確認できたとか。何故なら確認に出ようとした時に一番近いネルヤ邑から使者が来たそうだ。

 この使者から話を聞くとイキシ邑と同様に無条件降伏を迫ってきたそうだ。

 但しネルヤ邑は武家が戦闘を始めたようだ。交渉も何もしないのかな。

 結果は見事に返り討ち。武家は壊滅状態になってしまったそうだ。たった二名の男にまるで敵わなかったとの事。

 戦闘に出た武家は百名程。何の抵抗もできず殺されてしまったそうだ。聞いている感じだとこの二人相当強いんだろうな。

 ネルヤ邑からキュメネ邑へ同様の使者は出しているそうだ。ほぼ敵対関係にあるクージ邑には様子を見るために探索者を派遣したそうだ。

 クージ邑は強盗紛いの行為が多い邑で近隣の邑との交友は一切ないそうだ。

 アイナさん達は周辺に二人組の男達の拠点等が無いかの確認と僕が無事かどうかの確認のため外出してきたそうだ。

 僕の様子確認についてはアイナさんが主張してくれたらしい。・・ありがたい。

 ・・・それにしても邑の名前が覚えられない。記憶が無いから覚えられないのかな?でもきちんと覚えないと。


 これって・・・もしかして。思わずソニヤさんを見たけど彼女も同じ事を想像していたようで顔が青ざめていた。

 救援をお願いしようとしたネルヤ邑も危機に陥っていた。しかも武家が相応のダメージを負っている。これは救援をお願いする状況では無いと言う状況だと僕も思う。

 これがライラさん、アイナさんが言っていたネルヤ邑に向かうのは見合わせた方がいいという意味か・・・。


 これはなかなかにハードな状況だ。

 どうしたら良いものか。

 僕に良い知恵が浮かぶはずもなかった。

 

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