25.唯助けたい


 助けた女性が気づくのは結構時間がかかった。

 その間周囲を警戒していたけど特に何か接近する感じはなかったと思う。僕の目で見た範囲だから当てにはならないかもしれないけど。

 いきなり襲われるという事はなかった。この前のいきなり攻撃された件もあったからそれなりに注意して木陰を選んだのも良かったと思いたい。

 そもそもこの岩場は人があまり近づかない場所のはず。

 でもエリナさんや今回の女性といい近づいてきているのはどういう事なんだろうと考えた時に女性が気づいたんだ。

 僕よりエリナさんが対応したという事に事前に決めていたからエリナさんが声を掛ける。


「気づかれましたか?」


 女性はまだぼんやりとして反応が薄い。

 辛抱強くまった後にやっと意識がはっきりとしたようだ。体を起こして僕達を見て周囲を見る。

 当然のように驚いた表情をしている。すぐに冷静になったようで落ち着いた声で返事をしてくれた。


「助けて頂いたと理解して宜しいのでしょうか?」


 うん、落ち着いているようだ。これなら大丈夫かも。どこかの邑に送るのは遠くない限りは対応したいかな。

 エリナさんは変わらずフードを目深に被ったままだ。口元も見えないように隠す念の入れようだ。

 この応対を見て初めて理解した。これがエリナさんの通常の対人対応なんだと。僕の前ではフードを降ろしているのは信頼の証なんだと。

 僕が一人で感動している間に二人は話を進めていく。途中から僕は話に参加できなくなったし。邑の名前出されても分からないもの。ソリヤ家がいる邑の名前も分からないんだった。


「あなたが岩場を目指していたのであれば目的の場所についています。私達が見つけたのはあなた一人です。お連れの方や追跡者は今の所確認できていません。近くの岩に倒れていたので救助した状況です」

「丁寧にありがとうございます。そうですかわたし一人だけですか。それでも追手がいないのは助かります。わたしはソニヤと言います。キュメネ邑から逃げてきました」

「キュメネ邑では何が起こったのですか?」

「わたしは詳しく聞いていないのですが労働奴隷として手に入れた奴隷達が反乱を起こしたようなのです。奴隷達の一部はとんでもない異能を持っていて邑の男達は殆ど殺されたと思います。一部の女子供は逃げたのですが捕まったかもしれません。わたしは奴隷の格好をして従者達と共に逃げて来たのです」

「奴隷の反乱?キュメネ邑の武家は鎮圧できなかったという事ですか?あの邑は優れた武家の家があったと聞いていますが」

「分かりません。鎮圧できなかったという事は敵わなかったという事だと思います。反乱者の一部は武家の長より強い能力を持っていると父が言っておりました。とにかくわたしは逃げるように言われたのです」

「状況は分かりました。それでどこの邑に救助を求められる予定ですか?」

「受け入れてくれるかはわかりませんがネルヤ邑に向かうように言われました。ですが近くにはクージ邑がありましたのでこの岩場づたいに移動している所で追手の反乱奴隷に追いつかれ従者と散り散りになってしまって。夢中で逃げたら川に落ちてしまったのです。そこから意識があまりはっきりしていません。気づいたらあなた達に助けられた状態でした」

「そうですか。ネルヤ邑ですか。追手次第だとは思いますが簡単では無いと思います。ご存じかとは思いますが岩場を越えたら平坦な草原が続きます。見晴らしがいいので身を隠しながら逃げるのは難しいかもしれません」

「・・・・あなた方に見つからない道案内をお願いする事はできないのですか?」

「可能な範囲でご希望を叶えてあげたいのですが難しいと思います」


 あれ?

 ネルヤ邑って・・・エリナさんが追放された邑だったよな。

 だからエリナさんの声が沈んだ感じになったのか。

 確かに先ほどのエリナさんの話だと希望した邑に送るのが通例だと思う。

 だけど追放された邑に案内するのは流石に無理だよな。今の僕ではネルヤ邑への道は当然分からない。

 困ったぞ。

 少し相談が必要だな。いずれにしても早めに近くの邑に送り届けないといけない。

 見た感じソニヤさん服はあちこち汚れたり破れたりしているけど体は大丈夫そうだった。

 エリナさんが考え事を始めたので沈黙が支配していた。

 そこにソニヤさんの質問が始まる。


「あなた方のお名前と所属する邑を教えて頂いて宜しいですか?それとこの岩場にはどのような目的でいらしたのですか?」


 やっぱりそう来たか。これはかなり答えづらい。特に僕は名前以外は答える術が無い。よく考えたらエリナさんも同様だ。

 なんて誤魔化そう。答えによっては僕達も追手の仲間と思われてしまうかもしれない。

 人も来ない岩場にいるのだ。キュメネ邑の人か反乱を起こした追手以外にはいないだろうというのは当然の思考だよなぁ。


「私達はソニヤさま以上にお答えづらい立場なのです。名前はリナ。こちらの男性はケイと言います。ある事情で邑に所属していません。ですがキュメネ邑に縁はありません。ソニヤさまに危害を加える意思は全くありません」

「分かりました。危害を加えるつもりがあれば気を失った時にできますものね。わたしの命を助けてくれた事は間違いない事実です。あなた方を信じます」


 ソニヤさんは僕達の立場を配慮してくれたみたいだ。

 それでどうするかというのは未だに解決していないのだけど。

 エリナさんは偽名を使っちゃったし。よく考えたらこれは仕方ないのか。ネルヤ邑に送った際にエリナさんの名前を出されるのは良くないよな。

 なんとかソニヤさんを案内するしかないのか。結構難問だな。

 どうする?

 

 この岩場からキュメネ邑はどの程度離れているのか僕は分からない。だけど近い所で何やら事件が起こっているのは怖い。

 ・・・奴隷達の反乱か。

 この時は対岸の火事程度にしか僕は考えていなかった。記憶の無い僕には何も分かっていないのだから。


「ネルヤ邑までの道も安全か分かりません。安全の確認等が必要と思います。それに逃走でお疲れでしょう。少し休まれてから方法を検討しませんか?」

「わたし一人では何もできません。助けて頂いた上送っていただけるのであれば従います。ですがなるべく早くネルヤ邑に向かいたいのです。理由はお察しください」

「キュメネ邑に救援をお願いするという事ですね。私達も事情がありますが力を尽くします。私達の生活の拠点としている所に参りましょう。何もありませんが少しは食料もありますので」


 エリナさんの勧めでソニヤさんが立ち上がる。少しふらついていたけど大丈夫そうだ。疲労はありそうだから休んだ方が良いとは思う。

 先頭がエリナさん。その後ろをソニヤさん。後方も警戒しつつ全方位に注意しながら僕は後ろを歩く。

 ゆっくりと洞穴方向に戻る。特に怪しい人影はない。


 洞穴が見えてきた時に二人の人が入口に立っているのが分かった。あれは・・・。

 エリナさんの足が止まる。そして引き返そうとする。見知らぬ人がいるから当然の警戒だ。

 だけど・・・僕は知っている。


 あれは・・・。


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