23.意気地なしと言われてしまうのだろうか

 

 また夢を見ていた・・・のか?

 目を開くと周囲が薄暗い洞穴だった。

 ・・・ここ数日寝泊りしている洞穴だ。

 やっぱり夢だった。でも何の夢だ?

 あれは何だったんだ?


 ■■■・・・・妹?

 ■■■■さん?

 ■■■■■■■■■?

 なんだ?


 これは僕の思い出なのか?

 思い出せない。・・・頭が痛い。

 

 昨日エリナさんと今後の事を話している時から頭が痛かった。

 何かひっかかりがあって何かを思い出しそうな・・・もどかしい感じだった。

 無くしたものが戻ってくるような。

 この夢は記憶の一部分なのだろうか?

 あの夢の内容は・・・・・?

 あれ?もう思い出せない。

 夢は覚えておけないのか・・・。

 夢の中だというのに何か柔らかい感触が生々しかった。

 ん?

 ん?

 あれ?

 ・・・暖かい。

 右腕がなんで暖かいんだ?

 横目で見て驚いた。


 ・・・・・・・・・・・・


 なんで?

 エ、エリナさんが隣にいるんだ?

 しかも、す、すごい近いんですけど。

 動こうとしたのだけど動けなかった。腕をしっかりと捕まれているんだもの。どうして?

 お互い寝る場所は違う洞(ほら)部分を使おうという話で決まったじゃない?

 それぞれ選んで乾燥させた藁を敷いて寝る事にしたじゃない?

 それが何で僕の洞(ほら)にエリナさんが潜り込んでいるの?

 え?

 ええぇ!?

 

 僕何かしちゃったのかぁ~!?

 おかしいぞ。

 眠るときはお互いに別の洞を選んだじゃん。その後の僕は念のための警戒を洞穴の入口で数時間してから眠ったはずだぞ。

 その時にはエリナさんはこの洞にはいなかった。それは断言できる。

 そして眠った以降は確信はないけど変な夢が無かったらまだ眠っていたはずだ。一度たりとて途中で起きなかったはずだ。


 うん。間違い無い。


 ・・・・うん?・・・そうだよな。


 そうだ!

 後で足跡を調べよう。エリナさんが使っていた洞に僕の足跡がなければ僕は絶対にそっちには行っていない事が分かる。

 つまり僕がエリナさんを連れてきた訳じゃないと証明できるわけだ。


 そうだ。そうだよ。


 うん・・・・それでそっちの問題は解決だ。

 まずは落ちつこう。

 僕はそっと腕に巻きついたエリナさんの手を外す。

 うう・・・以外と力ありますね。はがれませんよ。気づかれないようゆ~くりと・・・・。

 少しづつ指を外して腕を動かす。

 

 あ?

 エリナさんの気配が変わった。呼吸音も変わったみたい。

 これは・・・。ゆっくりと目をエリナさんの顔に向ける。

 

 ・・・・。


 ・・・・やっぱりだ。


 ・・・・・・・起こしてしまった。


 目があったとたんにふにゃりと笑うエリナさん。

 あれ?その反応はどういう事?


「おはようございます。うなされていたようですけどスッキリとお目覚めできましたか?」


 え?ああ・・・・僕うなされていたんだ。


「え・・と。はい。スッキリというか驚きました。エリナさん別の洞で眠っていたんですよね?」

「ええ、そうですわよ。別の洞でお先に眠らせて頂きましたわ」

「それで・・・なぜこちらの洞で眠っているんですか?もしかして無意識に移動してしまうとか?」


 あ、まず。もうちょっと言葉を選べはよかったか。頬を膨らませてむくれているのか?そんな所作が可愛らしいけど。


「むぅ・・・。私は寝相は良い方です。ケイ君があまりにもうなされていたので背中をさすってあげていたのですよ。暫くしたら落ちつかれましたので少し休んでいたらそのまま眠ってしまったのですよ」

 

 なんと・・・変な夢を見ていた僕はうなされていたようだ。それをエリナさんは介抱してくれたのだと言う。

 感動したのですけど。

 だけどケイ”君”・・・・とは?昨日までケイ”さん”だったのでは?エリナさんの中で僕に対する扱いが変わったのかな?それは今はどっちでも構わないけど。

 それにしても色々不味い。ちゃんとケジメつけないと。


「そ、それはありがとうございます。ですが夜中に親しくもない男の寝床に女性が潜り込むのは不味いですよ。色々誤解してしまいますから」


 僕なりにケジメを付けたつもりでいるのだけど。言った途端にエリナさんの表情がまた変わる。う・・・ん。これは色々不味い目線な気がする。経験無いけど不味いと思う。

 

「親しくないと言うのはどの程度を親しくないと言うのですか?私が招いた事ではありますが一緒に死線を潜ったと私は思っています。私はケイ君に命を預け何度も救われているのですよ。もう他人とは思っていません。ケイ君は違うのですか?」


 おおう・・・・。

 案の定というかエリナさん・・・僕の腕をしっかりと抱えて強調してくる。色々と強調してくる。色々だよ。

 これは・・・かなり不味い。エリナさん見た目細いんだけど実は凄いんだよな。

 煩悩よ・・・去れ!

 なんと答えればいいのか。

 今の僕には・・・記憶の無い僕には責任がまだ取れない。本当にエリナさんの敵では無いと言い切れるかの確証が無い。

 悲しませたくないだけなんだ。

 こんな時には何と言えばいいのだろう?

 失った記憶が戻れば最適な返事が出来たのだろうか?



 意気地なしと言われても・・・・何も言えない僕です。

 

 なんか・・・エリナさんの内心の声が聞こえてきそうです。

 言いたくもないし。思いたくも無い。


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