21.僕の決断
良く分からない襲撃を受けた僕。
あの二人が戻ってくるかもしれないから注意は必要だと注意する。もしかしたら人数はもっと多いかもしれない。偵察していた可能性もあるしな。
万全を期すなら場所を変えるしかない。でも少なくても僕は生きていける場所を知らない。そりゃ邑に受け入れてもらえれば問題ないのだけどさ。
それがあり得ない以上十分に注意する。それだけだ。
でもあの攻撃は脅威だ。何が起こったのか全く分からなかった。しかも必殺の攻撃だと思うんだ。僕も”快癒”の異能が無ければ死んでいたはずだし。
やっぱり死んだと思っているよな。狩りの途中で獲物を見つけて攻撃したけど雑魚だったから捨て置いたという気分の攻撃だったのかもしれない。
屈辱的なものは感じる。あれこれ考えても仕方ないか。
まずはエリナさんの無事を確認しよう。相手の攻撃手段が分からない以上大丈夫だと思うけどエリナさんが心配だ。
僕は生活している洞穴に入りエリナさんの無事を確認しようとしたら丁度出てきた所だった。
「よかった。外に出ていただけですね。どこかに行かれたのかと心配になって出てきてしまいました」
緊張感が解けた表情でエリナさんはニッコリと笑う。随分と自然に笑うようになってくれて僕は安心する。
まだ数日しか一緒にいないけど最初はガチガチに緊張していたもんな。・・・お互いにね。僕の方が滅茶苦茶緊張していたかもしれないけど。
顔の傷も隠さないようになってくれているし。本当は傷を晒したくないのだろうけど今更隠しても仕方ないと思っているんだろうな。
傷を治す薬とかないのかな?
でも・・・そんな事はセランネ家でも考えたんだろうしな。あったら使っているよな。あ・・・エリナさんが首を傾げている。可愛らしい仕草だな。あ、僕のリアクションが無いからか。
考え事に集中しすぎだ。いけない。
「僕はどこにも行けないですよ。まだこの岩場の周辺も良く分かっていないのですよ。まだエリナさんのほうが知識があるじゃないですか」
「そうでしたわね。・・・記憶はまだ戻りませんか?」
「おそらく戻ってません。欠片も思い出さないです。本当に記憶があるのかも怪しくなります」
「そんな事はないですよ。拝見した感じですと十代後半だと思います。沢山の経験があるはずですよ。良い事も悪い事もでしょうけど」
「思い出したくない事があって記憶に蓋をしてしまったんですかね?名前もケイと名乗りましたけど正直な所怪しいんです。僕は何者なんだろうと考えちゃいます」
「私の異能に記憶に関するものがあれば良かったのですけど。・・・そうですわ。ケイさんの潜在する異能に記憶を呼び覚ますものがないかあれば良いのですわ」
「え?分かるんですか?」
「期待させてしまって申し訳ないのですけど分からないのです。ケイさんの潜在する異能は他の方と違って特殊のようなのです」
「ああ、ロックが掛かっているという話でしたね?なんか自分の事なのに良く分からなくて」
「いいえ。普通の方は分からなくて当然なのです。それを視るための巫女なのですよ。それでも普通ははっきりと視えるものなのです。ロックのようなものは視た事がありません」
「なんか自分が怖いですね。普通ではない。僕は一体何者なんでしょう?それを知るためには記憶を戻す必要があるのですよね」
「そうですね。他にはケイさんを知っている方に会う事ですね」
エリナさんとの会話で突然何か閃きのようなものが出てきた。何か思い出せそうな・・・。もどかしい。知人・・がいるのかも。エリナさんは僕の様子に敏感に気づいたようだ。
「その様子ですと何か思い出されました?」
「いえ・・・でも何かのきっかけになりそうです。何か思い出せそうな・・・。そうですね。知人の一人位は流石にいますよね?」
「はい。ケイさんの人柄でしたら一人ではなく沢山いそうです。男性だけでなく女性の知人もいるのではないですか?」
ん?なんか後半は探るような目になっているぞ。女性の知人?ああ、何かの映像・・・記憶が出てきそうな・・・やはりもどかしい。
あ・・と、エリナさんに心配をかけるわけにはいかない。今はエリナさんしかいないんだ。
「どうなんでしょう?思い出さないから自信はないですけど・・・そんなに多くは無いと思いますよ。ああ、そういう意味ではこの場合は他の邑から所在の確認はありますか?」
「成程。近隣の邑であれば所在不明になった場合は所在の確認が来る事はあると思いますわ。その邑がどうしても探し出したい理由があれば通常に行われますわ」
「と、なると僕の件は通常ではないか。僕は余程遠い邑から彷徨ってきたという事になりますか?」
「所在不明になるには色々な理由があると思いますわ。その理由によると思います。私などいい例だと思いませんか?私の邑では私は巫女能力喪失で隠居した事になっているはずです。この場合は所在確認は当然のようにしませんわ」
「確かに。その強引な理由を成立させるために殺害しようとセランネ家は考えたのですよね」
「はい。実家ならやりかねません。でなければ裏者を使いません」
そうなんだ。エリナさんは後に思い出したようだけど襲撃者はセランネ家の裏者だったらしい。影で表に出せない処理をする集団だという。セランネ家怖えよ。
そんな事を知ったりできるのは目の前にいる人のお陰だ。僕一人ではこのような考えも知識もなかった。つくづくエリナさんに合えて良かった。
そういえばエリナさんは僕の事をどう思っているのだろう?
結果として命を助けたのは僕だ。それに恩義を感じて暫くこの洞穴に滞在してくれているのかもしれない。
本当は当初目的の遥か北の邑を目指したいと思っているはずだ。少なくてもセランネ家は名家のはずだ。そこのトップにいたエリナさんが今の洞穴暮らしに耐えられるはずがない。
エリナさんを受け入れてくれる可能性がある邑を目指したいと思うはずだ。でも道中は危険が多いはずだ。しかしその道中を守ったり世話をしてくれる護衛や侍女さんはもう居ない。
この問題を僕を使う事で解決したいと考えているかもしれない。
(ケイさんはこれからどうなされるのですか?)
昨日問いかけられた言葉を僕は再度思い出す。
その問いかけにはエリナさんをどう考えるかも含まれている気がする。今頃思った。
さっきも考えていたけど更に確信した。
僕は・・・・エリナさんの役に立ちたい。エリナさんを助けたい。
今はそれだけだ。
まずはそれを伝えよう。
エリナさんの気持ちを確認するのはそれからだ。
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