19.安堵と決意

E's eyes past


 私はどうしてか寝付けませんでした。今まで眠っていた柔らかい寝台でなく固い地面に横たわっているせいではありません。

 そう、気が高ぶっているのです。

 理由は私の側で眠っている男性が理由です。

 あれからケイさんと遅くまで話をする事ができました。今、ケイさんは異能を使った反動でいつの間にか眠りについています。

 私を信用した訳ではなく異能を使った反動で起きていられなかったのです。信用されているのなら嬉しい事ですが、恐らく違うと思います。

 私に対する態度にどことなく距離を取る行動が多いからです。このような風体の女ですから仕方ありません。そこはもう慣れっこです。


 それでもここまでの反動を私は知りません。

 魔獣を倒すほどの異能の使用、ご自分の損傷個所を修復するための異能使用。余程の反動が予測されます。

 異能を使った反動は使用者と異能によって異なります。

 私の異能の一つである”啓示”は反動は全くありません。いつでも誰でも異能の有無を確認する事ができます。

 もう一つの異能である”祝福”は別です。これを使うと二日は同じ異能を使えなくなります。また能力低下の反動もあります。

 ケイさんの反動は著しい能力低下や逃られない睡眠の反動があるようです。今は比較的安全ですから丁度よかったのかもしれません。危険な所で不用意に使うとかなり不味いですね。

 厳しい反動はありますが彼の所持している異能はそれを補っても余るものかもしれません。何しろ魔獣を倒せてしまうのですから。

 

 それにしても一人で生活しないといけなくなる罰とはケイさんは何をしたのでしょうか?出身の邑を聞くのを忘れていましたが追放とはかなりの厳罰な事は確かです。

 このような異能を持っていても追放されるとなると相当の罪を犯した事になるのです。私にはそのような罪を犯す人には見えませんでした。

 まだ、本当にまだ少しだけしかお話できませんでしたけど人となりは分かります。

 素直で実直と表現すればよいのでしょうか?穏やかで面倒見が良さそうな人物と思いました。罪を犯すような事はできないと思います。

 もしかしたら・・・私と同じような扱いを受け追放されたのかもしれません。ええ、そうだと思います。権力者はケイさんのような能力者は邪魔なのかもしれません。

 記憶を無くしていると言われたので事の真実を確認する事はできないのです。でもきっとそうです。

 私は家に守られていましたが邑の男達は女性と二人になっても何もしないという事はあり得ません。

 彼は私が眠りやすいように寝具のようなものを作ってくれました。そして私には指一本触れる事もしていないのです。

 それだけでも良い性格の方だと判断できます。今は能力の反動で眠ってしまっています。

 ですが明日の朝起きたらご自分が先に眠ってしまった事を詫びるでしょう。そんなご気性だという事はちょっとの時間でも分かります。明日の事を思うと頬が緩んでしまいます。

 やはり良い方です。このような方に助けられた私は幸運だと思います。


 明日は私の従者達の消息を確認するために一緒に出掛けてくれるそうです。ご自分も気になって仕方ないと言われたので私は同行を拒めませんでした。

 一人で探すよりは一緒にいてくれる方が何倍も心強いです。そして何故か安心します。心の中が暖かくなります。

 そうなのです。ケイさんには私の醜い顔を見せたのです。本当は見せるつもりはなかったのです。何かの動きにフードが脱げてしまったのです。

 咄嗟に距離を取られると思いました。このような醜い顔を見せて平然とする人はいないからです。左目は潰れ、顔半分は赤黒く爛れているのです。家族ですら嫌って近づきませんのに。

 ケイさんはほんのちょっとだけ驚いた顔をしました。そしてあろうことか涙を流されたのです。私は驚きました。ご本人に確認すると理由は分からない、何故か涙が出たと言われるのです。

 それだけでした。

 一定距離を取るのは変わりません。でも言葉遣いも何もかも変わらなかったのです。まるで、それがどうしたのと言っているようでした。

 表情には出さないように気をつけていましたが、私は大きな衝撃を受けました。

 この醜い顔を晒しても変わらない態度で接してくれる事にです。

 

 これだけでも十分でした。

 

 できれば・・・この方の側で暮らしたいと思ってしまいました。

 でもケイさんの目的が分かりません。今は私を憐れんで一緒に行動してくれているだけなのだと思います。私に対する義理が終わればどこかにいかれるのかもしれません。

 何とか一緒に同行できないものでしょうか?でも私の容姿がケイさんの行動の妨げになる可能性もあります。それは本意ではないです。でもこのような方には二度と会えないと私は断言します。

 ならば行動は只一つです。

 ケイさんの目的を聞き、私は助力できるものがあれば助力をするため同行を申し出るのです。もう遥か北の邑の事は放念します。今の私の拠り所となる方はケイさん以外には無いのです。

 上手くいくでしょうか?私の巫女としての能力と知識は役に立つと思うのです。

 そうです!その方向で攻めましょう!

 もう私にはそれしか無いのですから。

 

 

 それにしても素敵な方だと思います。私の妹の言葉を借りれば優良物件と表現できるのでしょうか?妹は巫女の知識よりも一般の知識は豊富なのです。お陰で退屈はしない事が多かったですが。

 人となりは申し分無いです。

 異能も常人を遥かに超えるものを所持されています。そうなのです潜在的にはまだ多くの異能を発現する可能性がある方なのです。

 稀にケイさんのように複数の異能を潜在的に持っている方を視ます。ですがその異能を発現する事はできないのです。

 異能を発現するためには個々の魂の器に該当する異能を納める必要があります。納めて認識し修練する事で発現できるのです。

 通常の方はこの器が小さいのです。異能を所有できる人の数が少ないというのは実はこの器の大きさに因ります。

 ケイさんの異能は一つ一つがとても大きな容量を必要とする異能です。それでもケイさんの器にはすっぽりと納まっているのです。しかもまだ余裕があります。

 一体どれくらいの異能を納める事ができるのでしょう。数多くの異能の中からケイさんに適合する異能を選ばないといけません。

 その役目は私にしかできません。はい!私にしかできない事です。役に立てます。いえ、役に立つのです。あわよくば私に心を傾けてもらえれば・・・。ウフフ。・・・流石に自部勝手すぎますね。


 それでも頑張ります!

 私の醜い容姿を忌避しない男性とはきっとケイさんだけです。あの方以外に私を・・・私を娶ってくれる方はいないです。

 ・・・また暴走してしまいました。

 

 だって・・・ケイさんが悪いのですよ。無防備に寝姿を私に晒したままなのですから。

 このまま・・・このまま・・・お、襲われても・・・仕方ないのですよ。

 わ、私はそのようなはしたない事は致しません。でも、あまりにも無防備です。

 こ・・これは仕方ない事ですよね?そうですよね?

 私が変なのでしょうか?


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