第27話 報告

「……風巻!」


「ハッ!」


 攻略を成功した蒼は、1人になって小さく呟く。

 すると、名前を呼ばれた蒼の部下の風巻が、どこからともなく姿を現した。


「攻略の成功お疲れさまでした。蒼様」


「えぇ、復活したてのダンジョンだったのが良かったのかもね。初代様の時よりも最終守護者の実力は低かったはずよ」


 高ランク冒険者のため、再復活したダンジョンの攻略を余儀なくされた蒼。

 参加した冒険者たちによって攻略されたという情報は、すぐに上の層へと広がっていくことだろう。

 その中でも蒼が特に活躍したということは、風巻からしたら当然のことと考えているようだ。

 たしかに自分の力が役になったと蒼は考えているが、相手が良かったという思いがある。

 復活に溜め込んだ魔素や栄養を使用してしまったために、ダンジョン核は守護獣に回す分が少なかったのだろう。

 たしかに危険ではあったが、動き回れずに弱点も分かりやすいような相手ならそれほど苦もない。

 初代日向王国国王が攻略した前回は、多くの高ランク冒険者が命を落としたという話だから、今回はそこまでではなかったはずだ。


「凛久の報告をして」


「畏まりました」


 突然、再度ダンジョン化した地下都市イタヤ。

 高ランクの冒険者である蒼は、そのダンジョンの攻略に向かわなくてはならなくなった。

 そのため、監視対象である凛久のことを、部下の風巻に任せることにした。

 自分が見ていなかった間の様子を聞くために、蒼は風巻を呼んだのだ。


「凛久殿は、ランクの関係から上層部が担当でした。同ランクのクラセロと合流し、出現する魔物を従魔と共に無難に対応していました」


 指示を受けた風巻は、報告を開始する。


「蒼様の指導による剣術も様にはなっていました」


「そう……、教えた甲斐があったようね」


 凛久が担当したのは、ダンジョンの上層部。

 そこに出てくるのは、低ランク冒険者でも倒せるような魔物たちばかりとは言っても数が多かった。

 風巻としても心配だったが、凛久は従魔のクウや冒険者仲間のクラセロと共に出現する魔物たちを始末していった。

 そして、その時の剣術は、蒼の指導によって得た剣術だった。

 風巻の報告により、自分の剣術が役になっていることが分かり、蒼は嬉しそうに微笑んだ。


「それにしても……」


「ん? 何だ?」


 報告途中で、風巻が言い淀む。

 その歯切れの悪さに、蒼が首を傾げる。


「流石にミノタウロスが出た時は驚きました」


「っ!!」


 何を言うのかと思ったら、まさかの発言に蒼は目を見開く。


「上層にミノタウロス!? 本当!?」


「はい」


 自分たちのような高ランクの冒険者なら問題ないが、ミノタウロスなんてとても低ランクの冒険者が相手できるような魔物ではない。

 それだけ上層で出るような魔物ではない。


「凛久はよく生き残ったわね。あなたが助けたの?」


 ミノタウロスが出たのは驚きだが、こんな時のことを考えて風巻に監視を命じていた。

 それが功を奏した。

 風巻の実力なら、ミノタウロスを倒すことも難しくない。

 姿を見られてしまうことは仕方ないが、凛久のことを守ってくれたのだろうと蒼は考えた。


「はい。しかし、私の助力は僅かなものだけでした」


「…………嘘でしょ?」


 風巻から返ってきた答えに、蒼は目を見開く。

 たしかに自分は凛久に剣を教えたし、凛久にはクウという変異種の従魔が付いている。

 だからといって、他に冒険者仲間がいたとしてもミノタウロスを倒せるような実力があるとは思えないため、風巻の報告はとてもではないが信じられない。


「もしかして、あの武器を使ったの?」


 可能性があるとしたら、ゾーダイの町でゴブリンロードの脚を撃ち抜いた武器だ。

 長距離から攻撃できるあの武器なら、ミノタウロスにも倒せるはず。

 ゴブリンロードに一撃加えて壊れていたようだが、あの武器を修復していればミノタウロスを倒したと言われても納得できる。


「いいえ。あの武器を小型にしたような物を使用していました。威力は落ちますが、同じ武器だと思われます」


「っ!! あれを小型化したの!?」


「恐らく……」


 初代日向王国国王が作り上げようとして、断念した武器である銃を作り出した凛久。

 その威力は、初心者冒険者がゴブリンロードに一撃を与えることができるような代物だった。

 そんな武器を作り上げただけでもすごいというのに、それを小型化するなんて信じられない。

 驚きと共に問いかけた蒼に、風巻は頷きと共に返答した。


「なんてこと……」


 あまりの驚きに、蒼は動揺に近い反応を示す。


「しかし、経験不足によるものでしょう。私の介入がないと危ない場面がありました。本人は誰に助けられたか分かっていないと思います」


「そう、よくやったわ」


 最後のミノタウロスの突進により、凛久は危機に陥った。

 どこからともなく飛んできた攻撃により助かったが、実はその攻撃をおこなったのは風巻だった。

 凛久に危機が迫ったため、風巻は身を守るために介入した。

 指示通りに動いた風巻に、蒼は感謝の言葉をかけた。


「初代様が断念した武器を作りだし、しかも、それをいともたやすく進化させるなんて……」


 初代国王は武に優れていた。

 そして、武器の開発、性能の向上に尽力した人間でもある。

 日向の刀や槍などの武器は、その切れ味から愛用する他国の冒険者もいるほどだ。

 その初代国王の断念した武器を作り出して進化させ、しかも、低ランク冒険者でありながらゴブリンロードに一撃を入れ、援護があったとは言えミノタウロスを倒すような存在。

 そのことから、蒼は決意したような眼差しに変わった。


「……確定と言って良いのでは?」


「そうね」


 風巻の進言に蒼が頷く。

 凛久の何が確定だというのか。

 この会話が何を意味しているのかは、2人にしか分からない。


「引き入れに動きましょう」


「ハッ!」


 一時の間離れて様子を窺うことにしたのは正解だった。

 ここまでのことから、どうやら凛久は自分たちが探し求めていた存在のようだ。

 そうと分かれば、このまま放置する訳にはいかない。

 なんとかして自分たちに協力してもらうために、蒼と風巻は凛久への接近を開始することにした。


『凛久を手に入れて、何としてもあの人・・・の狙いを阻止しないと……』


 動き出した蒼は、心の中で密かに決意を固めていた。


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