第24話 秘密兵器

「やるっきゃないか……」


 凛久が懐から取り出したのは、銃だ。

 ゴブリンロードに一撃与えた猟銃ではなく、携帯できる拳銃だ。


「なんだそれ!?」


 凛久が手に持つ物を見て、クラセロは不思議そうに問いかける。

 この緊迫した状況で何をする気なのだろうか。


「秘密兵器だ」


「そんなのが?」


「あぁ」


 そんな武器今まで見たことない。

 とてもあのミノタウロスに通用する攻撃ができるとは思えない。

 そのため、武器と言われてもクラセロは信用できない。


「あれを止められるなら、何でもいいからやってくれ!」


「クウとクラセロは隠れてろよ!」


「アンッ!」「了解!」


 こちらへと向かって来るミノタウロス。

 クウとクラセロは無事な建物に身を隠すr。

 そして、凛久は建物の瓦礫に身を隠しつつ、迎撃するために銃をミノタウロスへと向けた。


「ガアァーー!!」


『頼むぞ……』


 瓦礫の端から銃口の照準を、迫り来るミノタウロスへと合わせる。

 そして、色々な願いと共に、引き金を引いた。


“パンッ!!”


「ガッ!?」


 破裂音と共に銃口から弾丸が飛び出す。

 その音に、ミノタウロスは警戒から接近する足を止めた。


「ガッ!!」


 発射された弾丸が、ミノタウロスの右腕に当たる。

 それによって、ミノタウロスは持っていた瓦礫を落とした。


「撃てた!」


 凛久は、まず思った通りに発動したことを喜んだ。

 というのも、今回も新作武器をぶっつけ本番で試すことになったからだ。


『魔法陣学を勉強して良かった……』


 ミノタウロスに痛手を負わせた銃を見て、凛久は勉強の成果を確信し、心の中で歓喜していた。

 凛久の言う魔法陣学とは、その名の通り魔法陣の学問だ。

 魔法陣を利用することで、使用者は魔力の属性を変換するという手間を省いて魔法を放つことができるようになる。

 凛久の作り出した拳銃の内部には、風魔法の魔法陣が描かれており、引き金を引くと魔力の弾を発射させるという仕組みになっている。

 凛久は、自分と同じ転生、もしくは転移者の可能性が高い日向王国の初代国王の情報の閲覧のためだけに、この地下都市の図書館に何度も通っていたのではない。

 猟銃の改良や、携帯しやすい拳銃を開発に魔法陣を利用することを思いつき、関連書物を閲覧するためでもあった。


「でも、音が出るのは良くないな……」


 思った通りの攻撃ができたことは喜ばしいが、贅沢を言うなら音がするのが難点だ。

 圧縮した空気を一気に放出することで、弾が高速発射される使用になっているため、放出した時に大きな音が鳴ってしまうのだろう。

 離れた位置から、無音で仕留めるのが凛久の理想とする戦い方だ。

 今回の様に単体が相手というのならばそれほど気にする事でもないが、数体を相手にした時にこうも音が大きいと、撃った時に居場所が慣れてしまう。

 まだミノタウロスを倒していないない状況でありながら、凛久は拳銃の改良点を考えていた。


「グ、グルゥ……」


「おっと、考えている場合じゃなかった!」


 右腕に風穴が開き、血を流すミノタウロス。

 何をされたのか分かっていないのか、凛久に警戒してこれまでのような接近を躊躇っている。

 そんなミノタウロスに対し、凛久は改善点を後回しにしてまたも照準を合わせる。


“パンッ!!”


 動く的より、止まっている的の方が狙いやすい。

 脚の止まったミノタウロスの巨体は、凛久としては恰好の的だ。

 また突っ込んでくる前に、凛久は追撃を放つ。

 発射された弾丸は、ミノタウロスの心臓があるであろう位置目掛けて飛んで行く。


「ガッ!!」


「くっ! 何て反応してやがるんだよ! 化け物が!」


 先程の攻撃から学習したのか、ミノタウロスは音が鳴った瞬間に動いた。

 それにより、凛久が狙った場所には直撃せず、またも右腕に風穴を開けた。

 最初の攻撃により前腕部分、2発目で上腕部分を撃ち抜かれたことによりミノタウロスの右腕は完全に潰すことができた。

 利き腕があるのか分からないが、瓦礫を投げて3人の冒険者を屠ったことから、恐らくミノタウロスの利き腕は右腕。

 とりあえずそれを潰せたのはいいが、狙ったところに当たらなかったことに凛久は愚痴る。

 最初の攻撃で、ミノタウロスは凛久の攻撃を直線的なものと理解したのだろうか、とんでもない反射速度だ。


「だったら……」


 知能的というより、野性の勘によるミノタウロスの銃撃の回避。

 銃撃に慣れる前に倒すしかない。

 そう考えた凛久は、狙いを心臓部から違う場所に移した。


“パンッ!!”“パンッ!!”


「ガッ!? ガウッ!!」


「よしっ!」


 凛久は2回続けて引き金を引く。

 連射してくると思っていなかったのか、ミノタウロスは1発目を回避するが、2発目が間に合わずに左太ももに着弾した。

 接近して攻撃してくるにしても、弾丸を回避するにしても、あの足があるからだ。

 ならばその足を潰せばいい。

 これであの高速接近による攻撃も不可能。

 勝機が見えた凛久は、思わず声を上げた。


「もう回避も無……」


「ガアァーー!!」


「なっ!?」


 片足が潰れて鈍った状態なら、もうこちらのもの。

 回避ができなくなったミノタウロスに止めを刺そうと、凛久は隠れていた瓦礫から身を出して、ミノタウロスの心臓に照準を合わせる。

 その会話の途中で、ミノタウロスが思わぬ行動に出た。

 棍棒代わりに左手に持った壊れた建物の柱を、凛久目掛けて放り投げてきたのだ。


「っと! やっぱり利き腕は右……」


「グルアァーー!!」


「っっっ!!」


 ミノタウロスの投げた柱が凛久の側に飛んでくる。

 しかし、冒険者たちに投げた瓦礫とは違い、難なく躱せる精度だ。

 やはり利き腕だった右腕を潰していたことに、凛久は安堵した。

 だが、まだ安堵するには早かった。

 投げた柱に凛久の意識を向けさせ、その隙にミノタウロスは片脚による突撃を開始していた。


「ふざけ……」


 凛久が愚痴を言いきる前に、もうミノタウロスは目の前に迫っていた。

 照準を合わせる間もない。

 さっきまでの勝機が一気に霧散し、凛久の頭には死の文字が頭に浮かんだ。


『間に合わ……』


 ミノタウロスの左拳が凛久に迫る。

 直撃すれば確実に死ぬ。

 しかし、もう銃撃も間に合わない。


“ボンッ!!”


「グァッ!!」


「っっっ!?」


 間に合わないことを悟り、凛久は生を諦めかけた。

 その瞬間、どこからともなく黒い物体が高速で飛来する。

 そして、その物体がミノタウロスの顔面に当たると、爆発を起こした。


「うわーーっ!!」


“パンッ!!”“パンッ!!”“パンッ!!”


「ガッ!! ゴッ!! ッ!!」


 爆発によって、ミノタウロスの攻撃は途中で止まった。

 何が起きたのか分からない。

 しかし、そんなことを考えている場合ではない。

 すぐに頭を切り替えた凛久は、目の前のミノタウロスの頭・心臓・腹の順で銃を連射する。


“パンッ!!”“パンッ!!”“パンッ!!”


「ハァ、ハァ、ハァ!」


 至近距離から頭と心臓を撃ち抜いた段階で、ミノタウロスの意識は途切れたようだが、そんな事を確認している余裕はない。

 ミノタウロスが倒れるまで、凛久は銃を連射しまくる。

 そして、ミノタウロスの体を穴だらけにしてようやく気持ちが落ち着いたのか、凛久は力が抜けたようにその場に座り込んだ。

 勝てたことに安堵すると、先程の死の恐怖がよみがえり、ガタガタと震える体を抱きしめてその場に蹲った。


「アン、アンッ!!」


「すげえぞ薬草屋!!」


「……ハハッ、良かった……」


 ミノタウロスが倒れたのを見て、隠れていたクウとクラセロが嬉しそうに凛久へと駆け寄る。

 2人(正確には1人と1匹)の顔を見て、凛久はようやく体の震えが止まり、笑顔を見せた。


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