第17話 1撃

「……おい薬草屋。なんだそりゃ?」


 怪我をした者たちに薬草を配り回っているうちに、凛久はいつの間にか冒険者たちに薬草屋と呼ばれるようになっていた。

 凛久の薬草で怪我を治した冒険者の1人が、凛久が何か始めたことに首を傾げて問いかける。


「遠距離用の武器です」


「遠距離用……? っ!! まさかロードを狙うつもりか!?」


 凛久が質問に答えると、問いかけてきた冒険者はまたも首を傾げる。

 武器と言っているが、どう見てもただの鉄の筒にしか見えない。

 しかも、凛久が見ているのは敵の総大将であるロードがいる方向だ。

 どんな武器だか分からないが、ランクが低い凛久の攻撃が、あのロードに通用するとは思えない。


「やめとけって! 失敗したら、お前が狙われるぞ!」


 今は前線にいる冒険者たちが魔法などの遠距離攻撃で対処しているが、それでも1人また1人とロードに殺されていっている。

 もしも、ロードに攻撃をして失敗すれば、凛久が次の標的になりかねないため、その冒険者は攻撃を中止するようにいった。


「分かっています。しかし、少しでも動きを止められれば、怪我を負う人間を減らせます。この武器の威力なら、通用するはずです」


「マジか……」


 西の森に向かってしまった高ランク冒険者たちが戻ってくるまで、何とかして持ちこたえないとならない。

 しかし、ロードの強さはやはりとんでもない。

 このままでは全滅すらあり得る。

 そうならないためにも、ロードに1撃でも与えられるなら願ったり叶ったりだ。

 その言葉を聞いた冒険者の男は、半信半疑の表情で凛久の持つ武器に目を向けた。






「行けるか……? きっと大丈夫……」


 ゴブリンと戦う冒険者たちから少し離れた場所。

 そこに移動した凛久は、武器を構えて自問自答する。

 

「猟銃免許は伊達じゃない」


 凛久が持つ武器、それは銃だ。

 自分にはチートな能力はないと思っていた凛久だが、この世界の知識を得ているうちに、その考えは違うと思うようになった。

 日本で生まれ育ち25年で得た知識は、この世界においては充分チートだ。

 それを利用して、凛久は剣術や従魔のクウ意外で身を護る方法を考えていた。

 安全に敵を倒すのなら、近距離よりも遠距離。

 いつかどこかの田舎でキャンプ場を開くのが密かな夢だった凛久は、免許を取っていたこともあり、すぐに猟銃が思いついた。


「構造は合っているはず……」


 猟銃の構造は覚えていたが、作れるか不安だったが、この世界には魔法がある。

 土魔法を使って、鉄の筒にチマチマとライフルリングを入れ、何とか銃は完成させることができた。


「……弾は一発。外せない……」


 銃は作ることができたが、火薬の材料が集められないために弾の製作の方が難しかったが、それは魔石によって解消された。

 魔石は魔素の塊のようなもので、魔力を溜め込んでいる。

 それを利用して、火薬の代わりにすることにしたのだ。

 しかし、それも最近になって1発作ることができただけ。

 試し撃ちも出来ないまま、今に至っている。


「……行け!」


 ロードに狙いを定めて自分を奮い立たせ、凛久は引き金を引いた。


“バンッ!!”


 撃った反動で、凛久の銃が壊れる。

 しかし、弾はロードに向かって一直線に飛んで行った。


「っっっ!!」


 冒険者たちの屍の山を作っていたロードは、猛スピードで接近する弾に気付く。

 しかし、気付いたとしても回避不可能。


「ガッ!?」


 凛久の放った銃弾が、ロードの右脚に着弾した。

 攻撃を受けたロードは、強烈な痛みに呻き声を上げる。


「くっ! 外れた……」


 この1撃でロードを倒すつもりで心臓を狙ったのだが、この結果に凛久は悔しそうに呟く。

 不完全な銃によるものなのか、それともロードの反射神経によるものなのかは分からないが、攻撃は失敗だ。

 しかし、完全な失敗ではない。


「い、今だ!! 攻めかかれ!!」


「「「「「オォーーー!!」」」」」


 右脚が潰れたことで、ロードの素早い動きは不可能になった。

 それを見た指揮官の領主は、戸惑いつつもすぐに総攻撃の合図を送った。

 その合図を受け、領兵と冒険者たちはロードに向けて一斉に魔法攻撃を開始した。


「ガーーーッ!!」


「くっ! あんまり効いていないか!?」


 片脚をやられて、ロードは殺到する魔法攻撃を躱すことができない。

 それを理解したのか、ロードは身を固めて防御態勢に入った。

 そのせいか、魔法が何発も当たっているというのに、ダメージをたいして負っていないように見える。 


「ギギッ!!」


「ゲギャッ!!」


 魔法を防ぐロードは、ゴブリンたちに向かって声を上げる。

 その声に反応するように、ゴブリンたちがロードの周りを囲んだ。


「あいつ! 仲間を盾に……」


 周りのゴブリンたちを盾にする事により、ロードは攻撃を受けないで済むようになる。

 その間に、1体のゴブリンがロードに向かって近付く。


「あれは薬草!? くそっ! 万事休すか!?」


 よく見ると、近寄ったゴブリンが持っているのは薬草だ。

 どうやらロードの怪我を治すために、採ってきたようだ。

 薬草のことを理解しているとは驚きだが、普通のゴブリンより知能の高いロードやキングなら、理解していたとしても分からなくない。

 何にせよ、せっかくロードの脚を止めたというのに、これではまた被害が広がる。

 そのことを理解すると、ゴブリンと戦う者たちの士気は一気に下がっていった。


「ガアァーー!!」


「くっ!! やるぞ! クウ!」


「アンッ!!」


 回復したロードは、自分の脚を撃ち抜いた敵を睨みつける。

 もちろん凛久に対してだ。

 自分が標的になったことで、凛久は一気に顔を青くする。

 逃げようにも、ロードの移動速度を考えると逃げ切れるとは思えない。

 逃げられないのなら迎え撃つしかない。

 勝てるとは思っていないが、凛久は従魔のクウと共にロードと戦うことを選択した。


「……よく粘った!」


「っ!!」


 ロードが凛久まであと少しという所まで迫った時、突如横から声が聞こえた。

 その声の主である男性は、迫り来るロードを止めるため、腰に差した剣を抜いて鍔迫り合いに持ち込んだ。


「待たせたな!!」


「「「「「オォ!!」」」」」


 鍔迫り合いに持ち込んだ男性を見て、ゴブリンと戦っていた冒険者たちが歓声を上げる。

 ようやく、西の森に向かっていた高ランク冒険者が戻って来てくれたのだ。

 彼だけでなく、他の高ランク冒険者たちも姿を現してきた。


「俺たちが最前線に立つ。みんなは援護を頼む!」


「おぉ! 了解した!」


 彼らが戻ってくれば、もうこっちのもの。

 ロードや他のゴブリンたちを任せ、領兵や冒険者たちは後方へと回った。

 その後、さすが高ランク冒険者たち。

 連携により、ロードやゴブリンの大群をあっという間に蹴散らし、ゴブリンの襲撃を阻止することができたのだった。


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