機内にて、思ふ
機内の
親しき仲にも礼儀あり、とも言うが、我々の仲では通用しない言葉である。互いに悪戯をして、互いに嫌がることをする。礼儀なんて言葉を知らないのかと言われれば、そうでも無い。ただ、互いに生真面目になれば互いに鳥肌が立つ。そんな仲なのだ。
そんな仲の我々は今、ある事情により2人で飛行機に乗っている。乗客用の
根元近く
諦めろ。もう乗ってしまったんだ。目的地に着くまではもう降りられない。地面にさえ恋しさを覚える私の心境を察したのか、峯田が私に云う。分かっている。云われなくともそんな事は分かっている。しかし分かってはいても、地から足を離してしまった現状が、どうにも落ち着かない。
ただ、どうやら、峯田もあまり落ち着いてはいないらしい。先程から何度も脚を組み、組んでは脚の上下を入れ替え、また組み替え、と、顔にこそ出さないが少々取り乱していることは容易に想像できる。
間もなく発車致します。機内に響く声。その声を聞いた途端、機内の雰囲気が変わり始めた。ある者は顔をくしゃくしゃにして泣き始め、ある者は悔いるかのように頭を抱え、ある者は静かに瞼を閉じた。
嗚呼、もう行くのか。峯田が云う。そうだ、もう行ってしまうのだ。我々はもう、二度と
湿っぽくなりつつある機内の空気を知ってか知らずか、我々を載せた飛行機はゆっくりと加速し、助走し、遂には空へと向かった。
嗚呼、もう戻れない。
嗚呼、もう煙草を呑めない。
嗚呼、もう、皆に会うことは無い。
何故ならば、我々の向かう場所は俗に云う"あの世"というもの。
誰もが哀しむ。誰もが悔いる。あの世へと向かう飛行機に乗ってしまったことを。
その飛行機は、白装束を纏った我々を載せ、静かに、着実に、確実に、我々をあの世へ運んでいく。
ゆっくりと、ゆっくりと。
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