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 目を覚ますと、隣で小羽ちゃんが泣いていた。腰を丸め、小さな体を震わせて、見ていたらこっちが苦しくなるくらいに息を詰まらせている。

 私は、段々と意識をはっきりさせて、さっき起こったことを思い出す。本当に怖い思いをさせてしまった。私が安全に連れ帰るとか意気込んで、結局、ドジ踏んで、上手くいかなくて、こんなにも小羽ちゃんを泣かせてしまった。河村さんの大切なものを傷つけてしまった。私がもっとしっかりしていれば、電車に乗る前にでも、無理やりにでも、連れ帰っていれば、なんて、今更なことを思う。

「小羽ちゃん……」

 頭を落として泣いていた小羽ちゃんの顔がハッとして私を見る。

「ごめんね……」

「ち、ちがう、違うんです、私が、私の方が……本当にごめんなさい」

 綺麗な花が萎れていくように、ますます小羽ちゃんは泣いてしまう。

 私は、本当にもう大丈夫だということ分かってほしくて、そこから起き上がろうとするけれど、激しく打ち付けた、か弱いアラサーの体が悲鳴をあげる。

「う……、いっ、たぁ」

 あえなく、体を床に戻した。

「――おや、お目覚めですか?」

 掛けられた声に目を向けると、そこには見覚えのある顔があった。

「あなたは、いつかの……」

「覚えて頂いていて光栄です、お嬢さん」

 首元の蝶ネクタイ。愛らしいお髭を動かして、優しい口元が微笑(わら)っていた。


「その節は、本当にありがとうございました。今回も助けてもらって、もういくらお礼を言っても足りません」

 そう、忘れるはずもない、馬鹿な私がいつか、出会い系アプリで出逢った危険な男から守ってくれたマスターだ。

「いえいえ。もう顔色も良いですし、大事がなくて本当に良かった。でも念の為に、あとで病院には行かれてくださいね」

 私は、はい、と頷きながら、ここに来るまでのことを思い出す。救急車を呼ぼうとするマスターに対して、自分は大丈夫だから事を大きくしないでと頼んだのだ。こんなことが河村さんたちに知れたら、小羽ちゃんをさらに追い詰めてしまう。

「ところで、ここは?」

「私の店の奥にある休憩スペースです。簡易ベッドなので、寝心地が良くなかったでしょう」

「いえ、そんなことはっ、おかげさまで、随分楽になりました」

「それは良かった。あと、左足はもしかしたら、折れているか、ヒビが入っているかも知れないので早く見てもらった方がいいでしょう。一応、勝手ながら応急処置はさせて頂きました」

 見ると、左足首には負担が掛からないように、添え木で固定して綺麗に包帯が巻かれてある。言われて気付いたが、ズキズキと痛んだ。

「さっきしばらく冷やしていたんですが、あとで、もう少し冷やしましょう。アイスを用意してきますね」

「あの……」

「私、こう見えて、以前は病院で働いていましてね」

 と、ウィンクを飛ばされた。カッコいい!


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