第3章 秘めた想いを秘めたまま

本人には悟られない様に注意深く 1

一番の友達になればいい、と決めてから、一週間。


私はあの変な光に付き纏われる事もなく、何も変わらない平穏な日々を過ごしていた。


「今日はどこかに行く?」


休日の午後。


お昼ご飯を食べ終わりコーヒーを飲みながらまったりしていると、雪ちゃんが「どうする?」と聞いて来た。


「あ…私、今日はハナちゃんにスコーンの作り方教わりに行く約束してるんだ」


「えー?そうなの?」


さっきまでニコニコしていたのに、急にムッとした顔になる。


「うん。昨日ハナちゃんから電話が来て、『明日午後からお店お休みにするから、良かったら来て』って」


「すっかりハナと仲良くなっちゃって……」


フイッと顔を背け、唇を尖らせた雪ちゃんがいじけ始めた。


気に入らないと、すぐこれだ。


「一緒に行かない?」


「……行く」


「じゃあ、良いじゃない」


四六時中一緒にいれば、上手く機嫌を取る事も自然と身に付く。


あ、そうそう。変わった事あったわ。


『雪ちゃんに敬語を使わなくなった』


事。


一週間前、急に「なんかよそよそしいから敬語禁止!」と、クッキーの型を取りながら言われた。


すぐに「無理です!」とその提案を棄却したんたけど、「そうじゃないと返事しない!」って言われちゃって……。


この一週間大変だった。敬語が出ると本当に返事をしないし。今みたいに唇を尖らせていじけちゃうし。


なんで敬語じゃダメなのか聞いてみてたら「江奈とは上司と部下の間柄になりたくない」と言われた。


そう言われて嬉しかったのは事実だけど、なかなか難しい注文だった。


で、ようやく馴れて、今現在。


ただ、会社の中では敬語は使ってる。まあ、秘書課と海外事業部にそんなに接点はないから良いのかもしれないんだけど、そこはモラルとして、ね。


「何時に行くの?」


「14時」


「じゃあもうすぐじゃない!」


時計を見ると、13時。


ここからハナちゃんのお店まで車で10分位だから、全然余裕の時間。


「急いで支度しなきゃ!」


雪ちゃんは勢いよく立ち上がり、カップをサッと洗ってパタパタと自室へ消えて行った。


「ハナちゃんのお店に行くだけなのに……」


でも、女として見習うべき所なのだろう。


仕事中は綺麗にしておかないと社長に恥をかかせてしまうからバッチリ決めているけど、その反動で休日はなーんにもしないでいる(正確にはしたくない)事の方が多い。


一言で言ってしまうと、「めんどくさい」から。


でも、ダラダラした格好で行くと、ハナちゃんからも何かを言われそうだ。それは避けたい。


「じゃ、私も雪ちゃん見習うか……」


残りのコーヒーを飲み干し、同じくカップを洗って、私も部屋へと戻った。

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