それぞれの自覚後 2
手渡されたタオルをギュッと握って、私は立ち尽くす。
――『何か取り返しの付かない事をしてたらどうしようかと思っちゃった!』――
雪ちゃんの言葉が頭の中に響く。
もう、遅い。
私の中ではもう、昨夜の事は『取り返しの付かない事』になってしまっていた。
「どうしよう……」
足の力が抜け、その場にしゃがみ込んだ。
「雪ちゃんの事、好きになっちゃったよ……」
そう口にした途端、涙が滝の様に零れ落ちる。
好きになりかけた時は、何度もあった。
でもその度に、絶対にその一線を越えない様気を付けていたのに、昨日の事でアッサリと落ちてしまった。
好きになっても、どうする事も出来ないのに。
「簡単に落ちるもんだな……」
涙でぐちゃぐちゃな顔を洗い流そうと立ち上がる。
気持ちなんて一生伝えられないし、伝えたとしても迷惑でしかない私の恋心。
成就しない私の恋。
蛇口から流れる水をぼーっと眺めながら、私のこの不毛な想いも、昨夜の記憶も、全部流れてしまえば良いのに。
そう思った。
**********
江奈と洗面所で別れ、アタシは自分の部屋に戻る。
窓辺に置いてあるソファーに、バフッと倒れ込んだ。
さっきのホッとした江奈の顔を思い出して、ズキッと心が痛む。
「普通に出来たかしら……やっぱり、覚えていないフリをして正解ね……」
さっきの話。
あれは全部ウソだ。
覚えていないなんて嘘っぱちで、朝目覚めた時も記憶は鮮明に残っていた。
でも、さっき江奈の気まずそうな顔を見た瞬間、咄嗟に何も覚えていないフリをしてしまった。
そうした方が、なんとなくいい気がして。
だって、オネエにあんな事をされたなんて、嫌でしょうから。
江奈は然程酔っていなかった。
だから、アタシのした事を覚えていないなんてあり得ない。
でも、アタシが覚えていないフリをしたら、何もなかったと答えた。
それは、江奈も無かった事にしたいんだ、と悟った。
笑って怒ってくれたら、「つい出来心で♡」とか「怒っちゃイヤ~ン♡」とか言っておちゃらけられたけど、それも出来なかった。
「汚点、よね。こんなの……」
――ズキン……。
さっきから、心臓がズキズキ痛い。
「何かしら……」
はぁ……と溜め息が漏れる。
無意識に、指で唇をなぞった。
昨夜の光景、江奈の唇の感触、白い足……頭の中に蘇る。
「江奈の足、キレイだったな……」
それと同時に、熱が体の中心に集まり始めた。
「……っ!?」
ガバッ!と立ち上がる。
「……え……?」
あれ……?
この感覚は……。
「嘘でしょ……?」
自分でも信じられなかった。
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