それぞれの自覚前 2

透き通った琥珀色こはくいろのワインがグラスに注がれるのを、


(1本7万円……。こんな庶民の私が飲んで良い代物なのかな……)


と、思いながらじーっと見ていた。


「どしたの?飲まないの?美味しいわよ」


「え?」


雪ちゃんは注いだ半分位を既に飲んでいる。


「あ、い、頂きます」


一口。


「……美味しい」


それ程辛口でもなく、とてもフルーティーでほのかに甘い。それでいて鼻から抜ける香りが、とても爽やか。


「でしょー?さ、飲んで飲んで♡」


見ると、雪ちゃんはあっと言う間にグラスを空にしていた。


私は、新たに雪ちゃんのグラスにワインを注ぐ。


「雪ちゃんは、お酒強いんですか?」


「んー、それ程でもないけど、ワイン1、2本程度じゃ酔えないわね」


「……それ、十分強いですよ」


「そぅお?ハナと比べたら全然よ」


「……………」


ハナちゃん、一体どんだけ!?


「江奈は弱そうね」


「はい。どちらかと言うと、おつまみメインです」


「あははっ!そんな感じがするわ!」


雪ちゃんが、グイッと2杯目も飲み干す。


「ペース速くないですか?」


3杯目を注ぎながら尋ねた。


「んー。なんか楽しくて♡」


「まあ、自宅なので良いですが、酔い潰れたらお部屋まで運べませんよ」


「だーいじょうぶ!これ位で酔う様な雪さんじゃないから!」


ケタケタと笑いながら、3杯目も飲み干した。


(……絶対ウソだ)


4杯目を注ぎながら、そう思った。



**********



「えなちゃーん。かーわーいーいー♡」


「……はいはい」


私は先程、「着ないであろう」とクローゼットにしまった部屋着を着て、雪ちゃんに膝枕をしている。


「……なんなんですか、この状況……」


「えー?だって、ひざまくらしてほしかったんだもーん」


うへへ、と言いながら、ゴロゴロと寝返りを打っている。


あれから雪ちゃんの飲むペースは変わらず、案の定早く酔いが回ってしまった。


そしたら何を思ったのか突然、


「えな!めいれいよ!さっきかってあげたへやぎをきてきなさい!」


と真顔で言い出した。


「は?なんでですか」


「いーから!きてきなさいよっ!」


「嫌ですよ、着ません」


あんなの私が着たって似合わないんだから絶対に嫌だ、と、私はふいっとそっぽを向いた。


「ひどい……」


グスン、と鼻をすする音がして振り向くと、だばだばと涙を流している雪ちゃんがいた。


「えぇ……」


いや、さすがに引くわぁ……。


「せっかく…えなににあうとおもってかってあげたのに……ひどいっ!」


グスグス言いながら自分の袖口を咥えて、よよよ、と項垂れる。


時代劇じゃないんだから……。


「……もう、分かりました!着替えて来るんで少し待ってて下さい!」


なんだか泣き止まないし、私はこれ以上グチグチ言われるのが面倒になって、そう言って立ち上がった。


「うん!まってるわ♡」


さっきまであんなに泣いていたのに、今度はケロッとした態度。


(……はかったな)


そう思ったけど、また泣かれたら面倒なので何も言わずに着替えに部屋へ戻った。

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