第23話 祭りの夜

 4人で祝杯を挙げる直人達。酒を飲みながらご馳走を食べるが、飲酒が初めてのモニカは1杯目のワインで酔い潰れてしまい、直人が二階に運んだ。ケイスはお酒が入るとすぐ寝るタイプらしく、3杯飲んでその場で眠りこけた。リナが『静寂サイレント』の魔術をかけて、直人とリナで杯を傾けた。リナはアルコールに強く同じだけ飲んでるのに、酔ってる様子がなかった。


「あっはははっ!それでその人猫の姿のままになっちゃったのか?」


「ええ、一月はその姿でしたわ。元に戻っても四つ足で歩いたり、毛繕いしたりしてました」


「面白れぇ!本当、魔法学校って感じだな」


「今でも学院の語り草ですわ」


 ほろ酔いになりながらリナの魔術学院の話で盛り上がる二人。リナは案外気さくで話上手だ。博識ではあるがそれをひけらかさないし、分からない事は丁寧に教えてくれる。魔術の構造についての考察も鋭い所があるし、直人のプログラミングの知識にも興味津々だった。


「リナさんって美人だし、頭もいいし、モテるでしょ」


「モテる?」


「あ~、異性が言い寄ってくるってこと……」


「そんな事ありませんわ。はっきり物を言う女だと煙たがられます」


「そうなの?はきはきしててカッコいいと思うけどな~。強い女性って感じ?」


「あなた、酔うと褒め上戸になるんですの?」


「んん~、どうだろう?」


 直人はグラスの中のワインを飲み干した。リナがすぐにボトルをとってワインを注ぐ。美女にお酌されて直人は上機嫌だった。


「ナっ……ナオトは、異性に言い寄られたりしますか?」


「あっはははっ!ないない。俺なんてほぼ空気だもん。あんまり話さないし、今まで女性と付き合ったことありませーん!」


「そうですの?」


「そうですよ!彼女いない歴=年齢です」


 意気揚々とワインを飲む直人。笑い話として聞いてくれるかと思ったが、リナは馬鹿にすることはなく直人に近寄った。


「ねぇ、ナオト……」


 リナの小さくて整った顔がすぐ側にあった。エメラルドグリーンの瞳がひらめき、ランプの灯りに照らされた薄紅色の唇が艶かしく思えた。







 目が覚めたらベッドの上で横になっている。微睡んだ視界でしばらく天井を眺めたが、襲ってきた頭痛が覚醒を促す。二日酔いの頭を抱えて起き上がろうとしたが、体に重みを感じた。左腕と左半身の自由が効かず、何かが自分に被さっていた。視線をそちらに向けると、物凄い美女が隣にいた。リナだ。


 えええええぇぇぇっっ!なにこれ!起きたら隣に金髪美女って!ハリウッド映画かよぉっ!


 直人の腕の中で寝息を立てているリナ。毛布がかかっているから全身は見えないが、たぶん裸だろう。豊満な胸が当たってますが!そして、直人も下着姿だ。


 これってまさか、ヤッたのか!嘘だろ!酒に酔った勢いとかフィクションじゃないのかよ!……ああ、ダメだ。何にも思い出せない!


 昨夜の事を掘り起こそうとするが、記憶がない。直人は酔うと綺麗さっぱり忘れるタイプだ。目の前のとんでもイベントに朝から心拍数を上げて頭をフル回転させ、リナが起きる前に先手を打つことにした。


 とにかく、腕を抜いて部屋を出ないと!目を覚ましたら烈火のごとく怒られる!


 ゆっくりとリナの胸部から左腕を引き抜く直人。リナを起こさないように体を起こしたが、リナが目覚めて体を起こし始めた。


「ん~んっ……」


「わああぁぁぁぁっ!リナさん!起き上がらないで!」


「大きな声を出さないで下さい。頭に響きますわ」


「ぁぁ、すみません」


 小声で謝り目を反らす直人。朝日に白魚のような素肌が照らされ、メリハリのある美しいボディーラインが浮かび上がる。リナが身動きする度に大きな胸が揺れていた。


 いやぁ、ご立派です。本当に15歳なんですか?


「ああ、いや、これは酒のせいというか、一夜の過ちというか……」


「何をいってますの?」


「ええっ、いえ、あの……その…」


 緊迫で汗が吹き出る。沈黙がチクチクと心臓に刺さり、耐えきれなくなって、洗いざらい白状する。


「あの!すみません!俺、昨日の事、何も覚えてなくて!したかどうかも分かんなくて!」


 正座して頭を下げる直人。ああ、この世界じゃ土下座は意味ないんだっけか。


「それに!俺、童貞ですし、酒飲むと勃たないし!してない可能性の方が高いかも。いえ、決して責任逃れをしている訳では!」


 直人の言い訳が終わって沈黙が訪れる。何か言ってください。黙られると逆に怖いです。


「……なにも、していませんわよ……」


「へ?」


 リナは掛け布団を引き寄せながら答える。前を隠したので直人は顔を上げる。


「あなたが酔い潰れたので、部屋まで運んだまでです。わたくしも屋敷に戻るのが面倒だったので、一緒に寝ていただけです」


 本当ですか?

 でも、俺は覚えてないから、その証言を信じるしかないよな。そう飲み下そうとした所で、モニカが部屋に入ってくる。


「ナオト、起きてますか?」


 ベッドの上には半裸と全裸の男女。なにこの浮気現場を目撃されたみたいな空気は……。


「ししししっ、失礼しました!」


 慌ててドアを閉めるモニカ。ああ、うん。この状況なら事後に見えるよな。もう、なんて説明すればいいんだ。


「はぁ~~」


「モニカにはわたくしから説明しておきますわ」


 自分じゃ上手く弁明できないから、お願いしてしまった。



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