第4話 世界が変わっても……
異世界に来てから一日経った。モニカが用意してくれた朝食を食べる直人。パンと水とソーセージが並んでおり、パンはめちゃくちゃ硬かったが、焼いたソーセージは肉厚で旨かった。肉汁と唾液で一杯になった口を咀嚼していると、来訪者がドアを叩く。モニカが立ち上がってドアを開けると、ふくよかな女性がそこに立っており、市井魔術師であるモニカに魔術の依頼をする。
「うそ!あんたの所も『使えない』のかい。穀物に魔術をかけてもらおうと思ったのに……」
「ごめんなさい!一昨日までは使えたんですが、また調子が悪くなってしまって……」
「『
どうやら、何かしらの魔術が使えなく依頼を断っているらしい。にしても、何処かで聞いたことある『魔術』だな。
*
モニカが仕事に出掛けた後は、直人は徹底的に家の掃除をすることにした。竈の使い方が分からないから料理は無理だが、掃除なら自分も役に立てる。綺麗好きな直人は清掃が好きなので、垢や
本棚の埃も取りたいので、1度本をどかして雑巾で拭いていく。本の内容は分からないが、表紙が同じ物を順番に並べて戻していく。単体の本は後でモニカに戻してもらおう。
1度汚くなった水を捨てて、ポンプで水を汲み上げる。蛇口から水が出ないのは不便だけど、川から汲んでくるよりはましだろう。2階に上がって生活用の部屋を掃除する。モニカの部屋を掃除するのは躊躇われたので、自分が使っている部屋を清掃する。隅にはってある蜘蛛の巣を払い、床を掃いて、机や窓を拭いていく。終わって窓を閉めようとした時、街の様子に目を落とした。
みんな自分の仕事に従事している。パンを焼く者、花を売る者、物を運ぶ者など。生き生きと仕事をしている彼らが眩しく、楽しそうな声が耳障りに思えた。
直人は振り返って机の辺りを見た。そこには『自分』がいる。パソコン向かってコードと睨めっこしている自分。家から出ずに必要最低限の関わりしかもたず、一人で生きている自分。
「世界が変わっても、何にも変わらないって事か……」
この世界に来て何かが変わる気がした。単調でつまらない日常が吹き飛んでしまうくらいの衝撃と希望が与えられるかと思っていた。
けど、何も変わらない。
自分の世界は1Kの部屋の中で完結している。当然で残酷な現実が突きつけられ、それを切り離すように窓を閉めた。
一階に戻って他の部屋も掃除していると、一つ開かない部屋があった。ドアノブには鍵穴も鍵も掛かってないのに、びくともしない扉だ。開かずの部屋だろうと諦めて戻ろうとした時、ガチャリという音と共に扉がゆっくりと開いた。
「あれ?開いた……」
その部屋を覗くと下り階段があり、地下室のようだった。直人は台所にあったランプを持って、火を灯して階段を下りていく。石段を下りきると石の壁が行く手を阻んだが、手で触れると横にスライドした。自動ドアなはずないから、何かしらの魔術なのだろう。
暗く
「これって……」
それは毎日見ているもの。そのスペルと記号を解読し、組み上げたり修正するのが『彼の仕事』だ。
「プログラムのコード?」
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