第34話 えっち……

「杏太郎……お姉ちゃんは悲しい……。悲しみマックスハートだよ」

「は、はぁ?」


 フリフリのフリフリだらけの外行き用ワンピースを着た姉さんが、腕を組みながらそんな事を言う。母さんは後ろでニヤニヤしながら俺達を見ていた。


 くっ……なんだこの変な恥ずかしさは。

 つーか姉さんが何を悲しむって言うんだよ。デザートか? デザートなのか?


「水族館に行くならなんで乃亜も一緒に連れて行ってくれなかったんだ!」

「連れて行けるかぁぁぁ!」


 まさかのそっち!? いやほら、姉さんと一緒に行くのなら別にいいさ。けど今日は連れて行けるわけないだろ? 一応デート的なやつなのに、それに姉さんを連れていったらドン引きされるだろうが!


「な、何故なのだ!? 乃亜がマンボウ好きなの杏太郎は知ってるだろう!?」

「マンボウの唐揚げが好きなのは知ってるけども!」

「いつも乃亜に美味しいをくれるマンボウさんの生き様を見るのだ!」

「その見方なに!?」


 姉さんは張る程もない胸を張って何故かドヤ顔。

 俺達のこんなやりとりを見て、澤盛さんはどんな顔になってるかと思いながら正面を見ると、キョトンとしていた。頭の上にはハテナマークがたくさん浮かんでそうな表情で。


「あ、えっと……澤盛さん? 多分混乱してると思いますけど、あのですね? 俺の姉と母親です」

「……ええっ!? お母さん!? お姉さんと妹さんだと思ってた……」


 まさかのそっちの勘違いだった。

 それを聞いて母さんはガッツポーズしてるし、姉さんはガーン! といった顔。


 まぁ、確かに母さんは若く見られるもんな。姉さんは事情が事情だし、しょうがないか。


「あらぁ〜ありがとね。私は杏太郎の母親の紗雪さゆき。こっちは姉の乃亜。よろしくね? あなたは?」

「え、あ、は、初めましてっ! わ、私は澤盛美琴ですっ! 日野くん……じゃなくて杏太郎さんとは仲良くさせて頂いてます!」


 で、澤盛さんはなんでそんなにガッチガチなんだ?

 それに仲良くって言っても、店員と客っていう立場以外で会うのは今日でまだ二回目なんだけどな……。


「乃亜は日野 乃亜! 十九歳!」

「……えっ!?」

「あぁ、うん。姉さんはちょっと事情があってこの見た目なんだけど、十九歳なんですよ。だから澤盛さんと同い歳ですね」

「同い歳? あっ! うん、同い歳同い歳!」

「もしかしたら昔、姉さんとどこかで会ってたりして」

「え、あ、う〜ん? それは……どうかなぁ〜?」


 なんか歯切れが悪いな。


「杏太郎。ちょっとお姉ちゃんにもその人とお話させなさい!」

「って言ってますけど……?」

「あ、うん。私は大丈夫だけど……」


 澤盛さんがそう言った瞬間だ。


「うちの杏太郎とは付き合いたかったら乃亜の許可が必要なのだ! このおっぱいお化け!」

「つ、付き合っ!? おばけっ!?」


 ちょっ!? なんつーことを! ほら、澤盛さんも戸惑ってるじゃないか! まぁ、確かにでかいけど! でかいけどもっ!


「乃亜だってホントだったらそのくらいバインバインになってるはずだったのに! いったい何カップなのよ!」


 そんな事聞いたって答えるわけないだろうが。目の前に俺がいるんだぞ?


「へっ? え、F……です……けど……」


 答えたぁぁぁぁぁ!? ってFか……。そうかぁ……。凄いな。


「え、えふ? えふって……えーびーしーでーいー……えふっ!? あ、乃亜には無理ポンだ。ママがあれだから絶望的だ……」


 姉さんはそう言いながら母さんを見る。

 あ、やべ。母さんイラついてる。いつもは姉さんに甘いけど、胸の話はダメだって。


「乃亜? ほらそろそろ行こうねー? 杏太郎のデートの邪魔したらダメだからねー?」

「ひっ! ママっ!?」

「じゃあ杏太郎。お母さん達は行くからね? あと澤盛さん。うちの子よろしくねぇ〜」

「あ、は、はいっ! よろしくされました!」


 母さんはそう言うと姉さんの腕を掴み、フードコートを出ていった。


「な、なんか俺の家族がすいません……」

「ううん。綺麗なお母さんと可愛いお姉さんなんだね……ってあっ!」

「どうしました?」

「…………すぐ目の前に日野くんがいるのに胸のサイズ言っちゃった…………」


 あ、あ〜……それか〜。


「えっと……イイと思います……よ?」

「えっち……」


 胸を隠しながらのその言葉。ありがとうございますっ!

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