第7話 海琴 〜歳上偽装〜

 二人は私が話すことを真剣に聞いている。


「えっとね? 彼と初めて会ったのは塾だったの。高校受験の為に通ってて、そこでね。同じ塾に知り合いも居なかったから、私はいつも一人だったけどね」

「それでそれで?」

「それで最初は全然気にもしてなくて、ってゆーか誰がいるとかも把握してなかったんだけどね。そしてある日ちょっとした事があって、私がそのクラスの皆から白い目で見られそうになったの。私はもう恥ずかしくてみっともなくてその場からいなくなりたいくらいだったんだけど……」


 私がそこまで言ったところで、千歌ちゃんが飴を全て舐めて棒だけになった物を口から出して一言。


「あのさ、何があったのかはわかんないけど、そんな状態なら帰れば良かったんじゃない?」

「うん。そうなんだけどね。そこの塾って出席状況が親にも伝わる所なんだ。ほら、ウチの親厳しいから……」

「あぁ、なる。ゴメン話の途中で。続けて?」

「うん。それで塾の先生にも何か言われそうになった時に、彼が笑いながら私よりも酷い状態で現れて教室の視線を全部自分に持っていってくれたの」

「それはただの偶然じゃなくて?」

「うん。違うと思う。普通に考えたらありえないくらいだったから」


 自惚れかもしれないけど、あれはきっと私を助けてくれた様な気がするの。


「そっか。海琴はそれで惚れちゃったか」

「それだけじゃないけど……うん。それがきっかけかな?」

「ねぇみこちゃん、ちょっとした事って何があったの?」

「う〜ん、それは……まだ秘密って事で」

「秘密かぁ。気になるけど……みこちゃんが話したくなったらおしえてね」

「うん。それはもちろん!」


 いつか、彼とちゃんと話せた時にその事のお礼を言うんだ。それまでは……誰にも内緒。


「それでどうするつもり?」

「どうって?」

「その好きな人の事よ。ちょっと失敗したからって諦める訳じゃないんでしょ?」

「う、それはそうだけど……」


 千歌ちゃんがそう言いながら詰め寄ってくる。そりゃ諦めたくはないけどぉ……。


「みこちゃん、今日はバイトは?」

「無いけど?」

「その人はどのくらいの頻度でお店に来るの?」

「わかんないけど、結構来てると思うよ? 私がシフトに入ってる時は結構見るかな」

「そっかそっか……うん! じゃあ待ち伏せしよっ!」

「きーちゃん!?」

「だいじょ〜ぶだよ! みこちゃん可愛いから♪」

「そういう問題じゃなくない!? 後、待ち伏せはさすがにちょっと……。それに彼、前に歳上が好きだってお店で叫んでたし……」


 聖美ちゃんは聖美ちゃんで、いきなりとんでもないことを言ってくる。待ち伏せってそんな……ねぇ?


「だいじょ〜ぶだよぉ! みこちゃん年齢より上に見えるし!」

「それって老けてるってことぉ!? 気にしてるのにぃ!」

「あ、違う違う。大人っぽいってこと〜。中身は乙女だけどねぇ〜」


 うぐぅ……。ただでさえバイトの面接の時に『大学生?』って言われて凹んだのにぃ……。


「そうだ!」

「えっ、今度は何!?」


 突然大きめの声を出した千歌ちゃん。千歌ちゃんはニヤニヤしながら私を見ると、予想もしてなかった事を言い出したの。


「その人は歳上が好きって言ってたんでしょ? なら歳上のフリしちゃえばいいじゃん! アタシの姉ちゃんが大学通ってるからそれっぽい服借りれるし。サイズは……うん、まぁなんとかなるでしょ! 姉ちゃんはアタシと違って胸大きいから多分大丈夫!」

「ちょ、ちょっと? 何言ってるのかわからないんだけど!?」

「そうと決まれば今日はガッコ終わったらすぐにアタシんち行くよ! 姉ちゃんには言っておくから。てかもうメッセージ送っておいたから!」


 そういう千歌ちゃんの手にはスマホ。画面には千歌ちゃんの『友達の恋の為に服借りるよ!』に対して、『マジで? よくわかんないけど青春じゃん! おっけーおっけー』って返事。

 行動早過ぎない!? それによくわかんないのにおっけー出しちゃダメだと思いますっ!


「え、ちょ、えっ!?」

「髪型は任せて」

「メイクはきよに任せてねぇ〜」

「私の意思は!?」

「「無いっ!」」

「無いのぉ〜!?」


 そんなぁ〜!






 面白いな、もっと読みたいな。などと思ってくれたら執筆の力になります。

 良かったら☆レビュー、フォロー、応援コメント等頂けると嬉しいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る