第5話 帰り道。呼び止める声
俺の話を聞きながら、乃々華は時折、『へ……へぇ、ふぅ〜ん』と顔を引き攣らせながら聞いていたけど、最後まで話したその途端──
「きゃはははははっ! そんなの偶然に決まってるじゃん! それか、よく買ってくれる客だと思われてるとかじゃない? 勘違いしすぎぃ〜!」
俺の肩をバンバン叩きながら大笑いし始めた。
「貴様ぁ! 言ってはならないことをっ! なんとなくそうなんだろうと思ってた事を言いやがったな!?」
「自分でも思ってたんじゃん。ダメじゃん。脈ナシじゃん」
「やめろっ! それ以上は言うなっ!」
「キョウにはなんていうか……高嶺の花っていうの? そんな感じの子は無理だって。同じ学校には誰が気になる子とかいないの?」
「学校に? いないな。全然」
「あっそう」
「あ、でも、この前の朝礼で表彰されてた三年生いるじゃん? 確か……書道だっけ? その人は好こ。なんつーか、完成された美人って感じ? 包容力半端なさそうだし」
「胸が?」
「胸が」
「色々理由付けても結局そこじゃんかぁ〜!」
やかましい。それだけじゃないやい! ちょっと糸目っぽい感じで、あらあらうふふ笑いが似合いそうな大人っぽい先輩なんだよ。名前なんだったかな? 眠くて覚えてないんだよなぁ〜。あと、体型は少しふっくらしてるようにも見えたけど、それは胸のせいかもしれない。ヤバい。
……あ、やっぱり理由は胸か? いやいやまさか。
だって人柄とか知らないからな。印象強い部分が頭に残るのは仕方がない。うん。仕方がない。
まぁ、これから関わる事も無いだろうし。言うだけはタダって事で。
「つーかその話はどうでもいいから学校行くぞ」
話を終わらせるためにそう言って俺は歩き出す。
「どうでもいいって……キョウにはね……」
「ん? なんだよ」
「なんでもないよーだ。べー!」
「べーって子供かよ……」
その後、俺は乃々華と一緒に学校に行くと、特に何事もない平穏で退屈な時間を過ごした。
そしてあっという間に放課後になり、俺は部室棟に向かう。
俺が所属する【
そこで俺のスマホが鳴る。相手は部長。内容は〖今日女バレが練習試合で体育館使えないから休みー!〗だってさ。
「おいおい、もっと早く言えよ……。はぁ、まぁいいや。丁度今日はソシャゲのイベント開始の日だし、エムドエヌドに出も行ってダラダラ進めっかな」
俺は一人そう呟くと、澤盛さんのいる店に向かって歩き出す。いや、いるかわからないけどな。
だけど俺は希望を捨てずに向かう。その結果──いませんでしたっ!
そのことに若干肩を落としつつ、今日は部活が無いせいであまり腹も減ってなかったから、ポテトとドリンクだけを頼んで窓際の席に座る。
ポケットからスマホを出して目の前に置いて、ポテトを掴みながらゲーム起動。
それからしばらくゲーム、食べる、外を眺める、を繰り返しているうちにスマホの充電が無くなった。
「……帰るか」
ゴミを捨ててトレーを片付けると、自動ドアをくぐって外に出る。するとそこで視界の端にデニムワンピースの上に、白いストールを羽織った女の人の姿が見えた。てか、店の中にいる時からチラチラ見えてたんだけど、まだいたのか。距離があるせいか顔はよく見えないけど、ストレートの長い髪が印象的だった。大学生くらいかな?
「なんだ? さっきからいるけど待ち合わせか? まったく。女の子を待たせるとはけしからん。まぁ俺は待ったことも待たせたこともないけど。あ、言ってて悲しくなってきた。帰ろ……」
時間を見ようとしていつものようにスマホを手に取り、何も映さない画面を見た後、ため息をついて家に向かって歩き出すこと十数歩。
後ろから近づいてくる足音。その音が止まると同時に声をかけられた。
「あ、あのっ……!」
「?」
その声に振り向き、声の主を視界の中におさめると、そこに映ったのは先程のワンピースの女性。
そしてさっきまで見えなかった顔を見る。その人は──
「え? あれ?」
澤盛さんだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます