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「イブ様だ。王族の」

「イブ……王女様?」


 王族の歓待を命じられているんだ、と彼は寄ってくるとそっと教えてくれた。

 自分は彼女の幼馴染だから、案内を命じられたんだ、と。

 その時は大変だなと思ったから特に問うことはしなかった。

 間違っても彼は公子。

 王位継承権を持たないだけで、王族なのだから身分が少し上の王族の案内などを申し付けられても不思議ではない。そう考えて彼の邪魔をしないように、イブ王女と二人でいるときはなるべく視界に入らないように気を付けた。

 彼と他の異性が仲良くしているのを見るだけで、心が冷たくなってしまう。

 そんな表情を、婚約者に見られたくないというのもあったからだった。


 

 秋の頃になると、二人の仲はより親密になっていった。

 学科をそろえ、まるで恋人でもあるかのように彼は振る舞っていた。

 しかし、週末には我が家に来て食事をして帰る。

 婚約者としての彼と、公子としての彼の二面性に振り回されている自分がいた。


「アンソニー様とは良い仲なのか?」


 義父からそんな質問が投げかけられたのは、冬を間近に控えた頃だった。

 王宮では王女とアンソニーは良い仲だと噂になっているらしい。婚約者の父親として、アンソニーの父親である公爵様に会わせる顔がないと、義父はぼやいていた。

 不貞なんて行うこともないけれど、婚約者がいる男性が他の女性と仲良くしているのは――つまり、今回なら女である私に問題があるからだ。世間はそう見てしまうからだ。

 爵位が高いというだけで、男性は得をするものだと知った時だった。


「……ロゼッタ。アンソニー様は公子ではなくなるそうだ」

「義父上様?」

「叔父上や兄上殿たちが相次いで病死なされた。イブ王女と懇意にしておけとは国王陛下の命令だったらしい。意味が分かるか?」

「……はい、義父上様」


 その時はただそれだけ言い、うなづくしかなかった。

 つまり、私達の婚約は成立しない。

 義父の言いたいことはそういうことだっただろうと、理解する。

 先に婚約したとか、恋人であったとか。

 そういったものが通用しないのが貴族の社会だ。

 女は家の代理人として政治に利用される。

 それは――伯爵家に養子入りした時から理解し、納得していなければならない大事なことだった。


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