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学院の正装でやって来たところといい、それにしてはせめて馬車程度を走らせてくれば良かったのにと思ってしまった。
彼の身分では単騎で歩き回ることは、世間からすれば相応しくない。
爵位に恥ずべき行為と言われても仕方ないからだ。
そうなると体面を気にするのも惜しいくらいに急いで用意して来たのだろうと考えてしまう。
「いきなりだ。だが、これでも――そうだな、礼儀知らずか……。家を通して来るべきだった」
その天然なのか、どこか抜けているのか、考えずに行動して後から指摘されるのはいかにも彼らしいと言えば、彼らしい。
つまり、それだけ熱心で、本気で、しかも――二度とないというくらいの気構えで来たのだろう。
「いいえ、もう。ここまで来て遅いですわ。アンソニー……お父様がダメだと言われたら、いいですか?」
「その時は――覚悟をしている」
覚悟の中身を聞くのが怖かった。
彼はこれだと決めたらそれ以外の物事から関心が失われるほど、集中力が素晴らしい。それは良い傾向だけど、周りが幸せになれるような決断ではないかもしれないからだ。
何となく聞いておかなければならない気がして、私はアンソニーにどう決めたの? と一声かけてみた。
すると彼は言うのだ。
「家を捨てる決意をしてきた」
悪びれず、はっきりと……。
これには唖然とするしかなかった。
この世間知らずの公爵令息は、身分を捨てて庶民になった元貴族が今と同じように生活していけるとでも思っているのかと呆れてしまう。
「いいですか、アンソニー。世間はそんなに甘くありませんよ。貴方は家を捨てるなら軍隊にでも行って、軍功でも立てて下さい。将軍にでもなれば、どんな女性でも貴方を見るでしょうから」
「……ロゼッタ。僕は君が欲しいんだ」
この告白にはその場にいた家人はもちろん、公子が来たと聞き、庭園の端にから慌ててやってきた義母すらも驚いていた。
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