お友達

「"あめちゃん"~!手加減してや~!」


「そんなことしませ~ん!」


「くぅ~!まぁ、約束は約束や!マスター!チーズケーキ2つ!」


「かしこまりました。」


「やった!"かわもっちゃん"ありがと!」



"あめちゃん"こと茗花さんと、"かわもっちゃん"こと川本さんは、将棋をしていた。どちらがデザートを奢るかを賭けて。



「お待たせ致しました。チーズケーキです」


「ありがとうございます!」


「ほら、奢りや!食べ!」


「ありがと!いただきます!」



何故こんなことになっているのだろう。目の前の現実が信じられない。

常連さんと常連さんは、いつの間にかお友達になっていた。


茗花さんが僕に秘密を打ち明けてくれた日、あの日から彼女は変わった。もう何もかも吹っ切れたようで、びっくりするほどの笑顔で、雑誌の中の自分にサインまでして帰って行った。

そして後日、その雑誌をペラペラ見返していた川本さんが24ページ目で手を止め、「なんやこれ!」と叫んだその瞬間、カランッと扉が開いた。その扉に目をやった川本さんは再び叫んだ。


『えー!この子やん!』


『えっ、なんの話で…あ、私ですね!それ!』


そんなこんなで話は進み、お互いのコミュニケーション能力の高さから意気投合。気付けばタメ口になり、あだ名で呼び合うようになっていた。


…に対して僕は、変わらずだ。

相手はお客さまだから当然ではあるけれど、少し寂しさを感じてしまう。疎外感。


「あ、そうや、あめちゃん。今度の土曜日行けそうや!」


「ほんと!嬉しい!じゃあチケット2枚ね。奥様とぜひ!」


「舞台なんて観に行ったことないから、楽しみやわ!」


「…舞台?」


ついボソッと、心の声が漏れた。


「あ、今度、事務所主催の舞台があるんです」


そう言って僕にポスターを渡してくれた。

そこには、今とは違うハッキリとしたメイクで、綺麗なドレスに身を包んだ茗花さんがいた。


「コメディ要素の入ったミステリー作品です。場所は舞踏会。たくさんの人が集まる夜、次々と起こる小さな事件がテンポよく解決していく、とっても爽快なお話なんです」


ポスターには当たり前だが日時が記されていた。


「高野さんもお誘いしたかったんですけど、日時がこの喫茶店の営業時間と被っていたので…」


「行きたいです!僕も!」


「…え」


「休みます!休業します!行きます!」

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