しずく

「いや!あります!」


「ほんとう、ですか?」


「はい。ちょっと待っててくださいね。あー、ちなみに、イヤリングのモチーフってどんな感じか覚えてますか」


「えっと、しずく型で、中で赤い宝石が揺れるタイプです」


こんな時でも詐欺対策を覚えているなんて、僕の危機管理能力はとても優れているのかもしれない。まあ、この女性が嘘ついているとは思っていないけど念の為だ。


「はい、これ」


「あ!これです!良かったぁ。ありがとうございます!」


「いえいえ!ずっと探されていたんですか?」


「まぁ、はい。諦めてはいたんですけどね。大切なものだったので、心のどこかでは、見つかればいいなぁって」


「そうだったんですね。見つかって良かったです」


"放っておいたらいけない気がした"なんて直感でしたことが、こんなに喜んでもらえるとは。捨てなくてよかった…いや、忘れっぱなしにしててよかった。


「本当にありがとうございました!」


「いえ、こちらこそ。ご来店ありがとうございました!」


彼女は嬉しそうにイヤリングをカバンにしまい、年季の入ったドアに手をかけ振り返った。


「あ、私、"ナバナ アメリ"って言います。また、絶対来ますね!」


そう言った彼女の笑顔は、あのイヤリングのようだった。

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