第112話



 ジューゴが最前線攻略組のプレイヤーにゴブリンの一件を説明してから5日後、彼は再びFAOの世界へとやってきた。と言っても、この5日間全くログインしていなかった訳ではないのだが、平日のログイン時間は仕事との兼ね合いもあるため、どうしてもプレイ時間が確保できないのだ。



 それでも1日のプレイ時間を平均して3時間ほど確保しているところを鑑みれば、ジューゴが如何にこのゲームに嵌っているかが容易に想像できるだろう。



「今日は週末だし、5時間くらいはできるかな」


「クエッ!」



 そう独り言ちながら、いつもの広場にログインすると同時に、クーコが肩に停まりながら「よっ」という感じに挨拶してくる。

 そんなクーコの首筋を撫でながら、今日は何をしようか思案するジューゴ。



(この5日間でやった事と言えば、ひたすらレベル上げだけだったしな……ゴブリンの件をないがしろにするわけじゃないけど、やっぱ人間息抜きも大事だと思うんだ)



 レベル上げと言っても、今日を入れて5日なので実際は4日なのだが、時間に換算すると12時間ということになる。

 だがしかし、一般的なTVゲーム、特にRPGをプレイしたことがある人からすればよくわかることなのだが、RPGにおいて12時間もレベル上げに費やすことが何を意味するのか。



 答えはたった一つ、“滅茶苦茶に強くなる”だ。

 このFAOにおいてレベル上げというものは、何も戦闘を行いモンスターを倒し経験値を稼ぐという行為にだけではない。



 特にジューゴのように戦闘職のみならず、生産職である鍛冶職人や料理人、果てはサポート職である盗賊や鑑定士などといった多種多様な職を修得している。

 FAOではプレイヤーが操作するキャラクター自身にレベルの概念が無く、取得した職業のレベルを上げる事でステータスを強化できる仕組みとなっている。



 各職業ごとにレベルを上げるための経験値の取得方法が分かれているため、ジューゴがこの実質4日でやっていたのは、戦闘・鍛冶・調理・隠密行動・鑑定という共通点のない行動だった。



 割合としてはレベルが低い職業を中心に行っていたため、偏りはあるものの大幅にレベルを上げる事に成功している。

 具体的には剣士レベル40、鍛冶職人レベル38、料理人レベル37、盗賊レベル35、魔導師レベル31、鑑定士レベル36といった具合だ。

 これだけレベルが上がれば新たなスキルや魔法を手に入れることができたのだが、高レベルで覚えた能力は得てして周囲に及ぼす影響が強いため、まだ試していなかった。



 それと当然ながら一緒に付いて回っていたクーコも大幅に戦力アップしており、クエックレベル33、僧侶レベル28、蹴術士レベル33となっている。

 加えて現在取得中の職業が、全てレベル20を超えた事で新たに選択できる職業枠が一つ増え、【魔武術師】という職を選択した。



 説明によれば、己の魔力を使用して自身を強化したり、魔力の弾丸を作り出し敵にぶつけたりといった遠距離と自己強化を主体とする職業らしい。

 実質的に遠距離攻撃を覚えさせたかったので魔導師でもよかったのだが、見慣れない魔武術師という言葉と説明の内容に興味を引かれ思わず選択してしまったというのがジューゴの正直な気持ちだった。



 ちなみに現在の魔武術師のレベルは13と他と比べて低いものの、近接攻撃と強化魔法と回復魔法だけだったクーコに新たに遠距離攻撃という能力が追加されたことで、近接攻撃のみという弱点を克服するに至った。



 そんなこんなで、以前とは比べ物にならないほど強化されたジューゴだが、それでも【ドウェルの迷宮】で出会ったスケルトンの方がまだ少し強いくらいだ。

 ミノタウロスに至ってはまだまだ遠く及ばないといったところだろう。



「それはともかくとして、今の俺ってこのゲームを始める前の俺から見たらどう見えてんだろな?」 



 ジューゴがFAOを始めたきっかけは、無趣味な自分を変えたかったという事が一つと、日ごろの人間関係で感じているストレスを癒すためだった。

 そのはずだったのだが、気付けば様々な偶然と不運が重なり現在のFAOプレイヤーの中でもトップクラスの実力を持つ有名人になっていたのだ。



「ホントに、どうしてこうなちまったんだ……俺はただこのゲームに癒しを求めただけなのに、リアルでの人間関係のストレスを解消したかっただけなのに……」


「クエクエ」



 今の自分の立場を憂い、思わず弱音を吐いてしまうジューゴ。

 それを察しているかのようにジューゴの肩をぽんと叩きながらクーコが慰める。



「俺の気持ちを分かってくれるのは、お前だけだよ」


「クエッ!」



 まかせろと言っているような雰囲気で、手羽先を器用に使い親指を立てる仕草をするクーコに苦笑いを浮かべていると、ふと以前から試してみたかったことを思い出し、ジューゴは目的の場所に向かって歩き始めた。

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