姉がいつでもやって来る

鳳雛

第1話 姉が告白現場にやって来る

碁点(ごてん)中学校、放課後の体育館裏。

中学3年生の少女:鈴(りん)は困惑していた。

なぜなら、

「好きです…付き合ってください!!」

年下の男子バスケ部員から告白されているからだ。

彼は顔を真っ赤にして返事を期待しているが、鈴の中でもう答えは決まっている。

「えっと―――」

しかし、

「俺、鈴先輩と付き合えるなら何でもします!

ケンカしたら必ず折れます!先輩が嫌がること絶対しません!」

鈴が断ろうとすると、彼はそれを遮って発言してくる。

「あの―――」

「好きです…好きなんです!!よろしくお願いします!!」

鈴が『はい』と答えるまでこのやり取りは続くのかもしれない。


そう思われた7回目。

「わた―――」

「先輩!!!」

「きゃっ」

彼は鈴の手を両手で握ってきた。

鈴は突然のことに驚き、声が出た。


そう、声が出たのだ。


「俺、俺…!ずっと先輩を―――」

…ぉぉ…ぉぉぉ…ぉぉぉぉぉ

「「?」」

遠くから暴走族のコールのような音が聞こえてくる。

ぉぉ…ぉおおおぉぉ…ぉおおぉお…おおぉおおお

「バイクの音か?」

「なんだかこっちに向かって来てるような…」

その音はだんだんと大きくなり、この告白現場へ近づいている。

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

「違う、これは…!」

鈴がこの異音の正体に気づく。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

「人の、叫び声…!!」

「ええ?!」

ドドドドドドドドドドドドドドドドドド

さらに地鳴りも聞こえてきた。

そして、ついに日本語が聞こえてきた。


「ぃもうとぉおおおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!!!」


声の主は「妹」と言っていた。


ズシューーーーーーーーーーー……


コンクリートにブレーキ痕をつけて体育館裏に登場したその人物は…

「おねえちゃん!」

「ぅえ?!姉ぇえ?!」

そう、鈴の姉である涼(りょう)だ。

「た、確かに似てる…」

彼女は鈴と同じ、栗色の柔らかい髪の毛を持っている。

「さっき、聞こえたんだ」

全力疾走してきたはずの涼は、息を切らすことなく冷静に口を開いた。

「鈴の…叫び声が」

「え」

「叫び、声?」

「そう!『きゃっ』って!あの鼓膜が破けるほど大きな、そして可愛い叫び声…!」

「「・・・」」

鈴と男子バスケ部員は呆然とする。

鈴が手を握られて出した声のことだというのは理解したが、

鈴は叫んでもいなければ大きな声も出していない。

「で、鈴?何があったの?ん?」

涼は赤子に話しかけるような優しい声で鈴に問いかける。

「あの、えっと、この人に恋の告白をされて、手を握られたの」

「そっかぁ、よしよし。鈴は可愛いからなぁ」

「えへへっ」

鈴の頭を撫でた後、涼は男子バスケ部員に向かって歩き出した。

そして、鈴に聞こえない大きさで話す。

「お前誰に許可取って私の鈴に触ってんの?相手が中学生でも許さないよ?しかもあんな悲痛な叫び声を出させるなんて重罪だね。その様子じゃ告白を断られるのが嫌で何とかしようとしたんだろうな。はいもうその思考が罪。告白するのは勝手だけど相手の気持ち考えて行動しろよ。まず鈴に話しかけるな。次に鈴を見るな。最後に鈴の声を聴くな。お前の人生に鈴を関与させるな不快だから」

「ひぃぃいいいいいいい!!!ご、ごめんなさいぃぃぃぃいいいい!!!!!!!」

男子バスケ部員は顔を真っ青にして去っていった。

「さあ鈴、帰ろう」

涼は何事もなかったかのように、心からの笑顔で鈴に手を差し伸べる。

「うん!おねえちゃん、ありがとー」

鈴はその手を取って、涼に笑顔を返した。

「っしゃあ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「?」

「ああ、何でもないよ。行こう」

鈴からお礼と笑顔をもらえた喜びを五臓六腑に染み付かせて、姉妹一緒に帰宅した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る