157 魔石坑道
ウェイケルを先頭に、俺たちは魔石坑道へと進んだ。坑道の広さは先程よりも少し狭くなったようだが、まだまだ十分な広さだ。でもこれ以上は狭くならないで欲しいな。
――ん? あれ? なんだこれ……。
俺が首を傾げていると、それに気づいたセリーヌが声をかけてくれた。
「どうしたの? マルク」
「空間感知がなんだか……、変なんだけど……」
鉱山に入った時から空間感知の精度が、普段に比べて何だかはっきりとしないぼんやりとしたものに変わっていた。俺はそれを鉱山内部の高低差とか閉鎖された空間の影響だと結論付けていたんだが、魔石坑道に入った途端、これまで以上に違和感を覚えた。
するとセリーヌは何度か見た意地悪な笑顔を浮かべながら、俺の頭をポフポフと叩く。
「んふふ。ここは特に魔石が採れる坑道でしょ? だから空間感知するためにマナを広げても、周囲の魔石が干渉して感知を狂わせるんでしょうね~」
な、なんだってー。空間感知が出来なければ目視するしかないじゃないか。こんな暗くて視界の悪いところで、目視のみで魔物に備えるだなんて恐ろしすぎる。
「セリーヌ。すごく怖いんだけど」
「そうね。でも常に自分の思い通りに魔法が操れるとは思わないことね。魔法は便利だけれど、環境や体調次第で自由に操れないことだってあるのよ。いち早く自らの置かれている状況を知り、それに応じた対策を練ることはとても大事なのよ?」
「うーん……。いつも遠くから
「そういうこと。頑張んなさい~」
セリーヌはニッコリと俺に微笑むと前を向いた。授業の時間は終わりのようだ。……うーむ、状況に応じた対策かあ。
どうやらセリーヌはこのような環境に俺を放り込むことで教育を施すつもりらしい。しかし俺には石ころを飛ばすしか攻撃手段はないし、接近を許した魔物に対して、どんな対策を練ればいいのかよくわからない。なにかいい案がないだろうか……。
――そうして俺が考え込んでる間にも、順調に魔石坑道を突き進んで行く。ここまでストーンリザードに襲われることはなかったが、進むにつれてストーンリザードの死骸が通路のあちらこちらに散らばっているのを見かけるようになってきた。
「ウェイケルさん。これってウェイケルさんたちがやったの?」
お兄ちゃん呼びはしっくりこなかったので、ウェイケルさんと呼んでみる。
「ああ、マザーの巣に行くまでに結構な数を倒していったぜ。マザーたちには不覚を取ったが、俺たち青豹団がまとめてかかれば普通のストーンリザードに負けることなんてないからな」
「でも勿体ないないわねー。ストーンリザードの皮はそれなりに売れるのに」
セリーヌが喉を一突きされて即死しているストーンリザードを見ながら呟く。ここにあるのは真新しい死骸ばかりだし、古いのは鉱夫が金にするために持ち出したのだろうか。鉱夫たちがすぐにギルドに依頼を出さなかったのは、案外この辺も関係しているのかもしれない。
「そりゃあ俺らだって売れるのは知ってるんすけど、これだけ図体がデカいと、さすがに素材回収しながら進行していくってのは無理っすよ。撤退する時は各々必死でしたし」
ストーンリザードは体長150センチほどの大きさで、しかも胴体部分がずんぐりと太い。これを持ち運びながら討伐依頼をこなすというのは確かに無理があるだろう。
「そういうことらしいわよ、マルク?」
ああ、なるほど、そういうことなら。
「じゃあこれ要らないの?」
「ん? ああ、要らないけど……。坊っちゃん、持ち運ぶのはやめとけよな? 坊っちゃんよりも大きいんだぜ?」
誰が坊っちゃんだ。セリーヌの隠し子じゃないっての。それはさておき、要らないのなら近くにあるのだけでも回収しておこう。俺はストーンリザードに向かって手をかざし、アイテムボックスの中に収納した。
「えっ!? 消えっ? ……アイテムボックス!?」
掠れ声での問いかけに俺が頷くと、ウェイケルが目の色を変え俺の両肩をポンと掴む。そしてさわやかに歯を輝かせた。
「青豹団に入らないか? 俺のことはウェーイと呼んでくれていいぜ!」
「絶対に嫌だ」
ウェーイウェーイと言いながらの冒険者活動とか、絶対に馴染めそうにない。
「あら、マルクが断固拒否するって珍しいわね。それならもう諦めたほうがいいわよ?」
それくらい嫌だったのだ。セリーヌの忠告を聞いたウェイケルはガックリと肩を落としながら移動を再開する。するとニコラから念話が届いた。
『ここ最近、ラックやらウェイケルやら男からお誘いが多くてモテモテのようですね。これから助けに行くお姫様もラックとジャックで、ジャックなんて助けるの今回で二回目ですよ。ジャックは女嫌いになったみたいですし……。お兄ちゃん、もしかしてそっち方面に進んじゃうんですか?』
『うへっ、勘弁してくれよ……』
俺が腕に立った鳥肌をさすりながらニコラを睨むと、ニコラはニヤニヤ笑いながらセリーヌの背中に隠れた。
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