78 カバンくん

「どういうこと?」


 俺はカミラに問いただした。まさか本当にホストではあるまいよ。


「マルク君のお陰で屋上を接客に使うことは決まったんだけど、そうなると今度はお店で提供するおつまみなんかが足りなくなるかもしれないの。ウチの厨房は小さいからね」


 夜のお店のおつまみといえば、乾き物や揚げ物、フルーツなんかだろうか。確かにフルーツはあんまり保存が効かないし、揚げ物は作るのに時間がかかるだろう。


「だからね、先に作っておいたおつまみをマルク君のアイテムボックスに保管してほしいのよ。お願いできないかしら?」


 つまり俺を冷蔵庫代わりに使いたいということですね。うーん、アイテムボックスだけをアテにされるのは、道具扱いされるようで釈然としない気持ちもあるけど……。腕を組みながら少し考え込んでいると、ギルが俺に向けて両手を合わせて拝んでいた。それさっきも見たよ。


 ギルにはお世話になってるしなあ。それと最近ニコラが料理の練習でストレス溜まってそうだし……。


「わかった、手伝うよ。その代わり、もし妹が一緒に行きたいと言ったら連れてきてもいいかな?」


 少しニコラに息抜きをさせてやろう。なによりこんなイベントにニコラを誘わないと後が怖い。


「妹さん? それくらい全然いいわよ! マルク君ありがとう!」


 カミラはそう言うと俺を抱きしめて持ち上げ、その場でぐるぐると回った。柔らかかったりいい匂いがしたりと大変気持ちがよかったが、ふと視界の端に入ったパメラの目がなんだか冷たかった。


 しばらくカミラに好き放題にされ、開放されたところで言い忘れていたことを言っておく。


「あと夜に出かけるなら両親にも許可を貰っておかないといけないけど、そっちは多分大丈夫だから」


「ああ、そうだったわね。ご両親の許可も必要よね。それが一番の難問な気がするけど……、大丈夫なの?」


 俺は大きく頷いた。カミラは心配そうな顔をしているが、今までの傾向からして許可は簡単に下りるだろう。ぼったくりバーとかなら論外だろうけど、ギルの知り合いの店だしね。


 そこまで話がまとまったところで、ギルが申し訳なさそうな顔で俺の肩に手を置いた。


「本当に今回は頼ってばかりですまんな。その上で悪い、屋上にさっきと同じテーブルを三つ作って欲しいんだが、頼めるか?」


 はいはい、もちろんいいですよ。いつも世話になっている分、今回は恩を返すチャンスだと思おう。



 テーブル作成を了承した後は、さっそく屋上へと向かった。パメラも興味があるのか、一緒に階段を上がっている。


「あら、パメラはもうお家に戻ってもよかったのよ?」


「ううん、私も見てみたいの」


 背後でそんな声が聞こえた。俺の魔法は見応えがあるからね。仕方ないね。



 屋上に到着。そのド真ん中に先程作ったテーブルがそのまま置かれていた。そのテーブルを指差しながら尋ねる。


「カミラさん、テーブルの高さとかデザインはあれと全く同じでいいのかな?」


「ええ、大丈夫よ」


 手本があるなら尚更簡単だ。サクサクと三台のテーブルを作り出すと、俺の土魔法を初めて見たパメラが作りたてテーブルを触りながら聞いてきた。


「ねえマルク君、どうしたらそんなに魔法をうまく使えるの?」


「そうだなあ、毎日たくさん魔法を練習することと……。それと、教会学校に行ってたくさん勉強することかな」


 俺はすこしもったいぶるように顎に手をあてながら答えた。するとパメラは少し困った顔をして、


「そっか……」


 とだけ呟いた。うーん、もうひと押しかな? カミラもそんなパメラの様子を興味深げに見つめていた。


「それでカミラさん。僕は次はいつ来ればいいのかな?」


「視察の前日の光曜日に料理をまとめて作るから、前日と後は当日の夜に来てもらえれば大丈夫よ」


 光曜日か。それなら……。


「オホン、それなら光曜日に教会学校に行った帰りに寄るのがいいかな。でも教会からここまでの道がよくわからないかも」


 わざとらしく咳払いをしてカミラに言ってみた。するとカミラもわざとらしいくらいに困った声を上げる。


「あらー、それじゃあ教会学校からの案内役が必要になるわね。あーあ、どこかに手伝ってくれる子はいないかしら……?」


 そうして二人でパメラを見つめた。パメラも俺たちが何を言いたいかわかったんだろう。少し俯き、それから胸に両手をあててぐっと力を込めて顔を上げる。


「マルク君、何かあったら守ってくれる?」


 勇気を出す子にはしっかり応えてあげないとね。


「もちろん」


 そう言って笑いかけると、


「お母さん、私もう一度学校に行ってみたい」


 パメラは決意を込めた目で、カミラに自分の意思を示した。

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