地平線
幻中六花
第1話 私の推しは遠い存在
私には好きな人がいる。その人は、遠くに存在している。
今風の言葉で表すと、『推し』というらしい。
クラスに存在している男子とはちょっと違う、現実味がないメディアの中に、私の『推し』はいる。
みんなが騒いでいるアイドルとか、ちょっとイケメンすぎるお笑い芸人とか、そういう、『テレビをつけると見ない日はない』という人ではなくて、あまりメジャーではないスポーツ選手だ。
テレビをつけても見れないし、今私の目を癒すのは、彼やチームのSNSだけ。
多くのファンは自分を認知してもらうため、誕生日にはプレゼントを贈ったり、試合を全国どこへでもホテルを取って見に行ったり、撮った写真をSNSで本人に送りつけたりしているようだけど、私にはそういう気持ちはなかった。
別に認知されなくてもいい。されたらそりゃあ嬉しいけれど、されなくてもいい。
ただ、想っていられれば、いい。
彼の名前は
藍沢選手が所属しているチームは、その大人気選手がいるチームではないので、チケットも取りやすいかな、なんて思った私がバカだった。
チケットは販売当日、いい席だとものの5分で売り切れるのがデフォ。相当頑張らないと取れないし、取れてもいい席だとは限らない。
いい席が取れなかったファンは、チケットの交換を求めてSNS上に浮上する。
交換ならまだいい。たまに、転売目的で複数枚買う人がいて、「定価では売れません」という苛立ちパワーワードをくっつけて身を乗り出してくるから怖い。
私は国内リーグのチケットを何度か取ろうと頑張ったけれど、販売開始5分でなくなるものに時間を費やすのはやめにした。
試合ならスマホがあれば観れるし、カメラを抱えたファンが素敵な写真をSNSに上げてくれるだろう。
その写真を無断で使うのはもちろん違法だが、眺めるのはOKだし、見てほしいから流しているのだ。スマホに穴が開くくらい見させてもらっている。
藍沢選手にはファンが多い。ファンに対する当たりもいいらしい。きっと広くて優しい心を持っているのだろう。
でも、スポーツ選手たるもの、優しいだけでは勝てない。きっと、素直にミスを受け入れて潰し、ケジメもある選手なのだ。
私は昔から人に流されやすくて、自分の芯というものを持てない人間。だから、自分の芯をしっかりもっている藍沢選手に惚れてしまったのかもしれない。
ほら、人って自分に足りないものを持っている人に惹かれるっていうし。
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