第28話 カボチャのスープ、グラタン、コロッケ

ナギとセドナは市場で料理の材料を大量に購入して冒険者ギルドに戻った。


すぐにレストランの厨房を借りて料理を始める。


まず、カボチャを小さく切らねばならない。


アイテムボックスから、ジャック・オー・ランタンを取り出した。

巨大なカボチャのモンスターの死骸に、レストランの料理人達が驚きの声を上げる。


「おい、ジャック・オー・ランタンだぞ」


「カボチャ料理の具材では最高品質だぞ」


「あんな高級食材、見たこともない」


どうやら、ジャック・オー・ランタンは料理の具材として人気があるらしい。


ナギとセドナは巨大な鉈のような包丁を貸して貰い、ジャック・オー・ランタンを豪快かつ繊細に切り裂いていく。


ふとナギはセドナを見た。


銀髪の少女は、ジャック・オー・ランタンを美麗な動作で切り裂き、タマネギを刻んでいく。


(セドナの料理の腕前は相当なものだな……、プロの料理人と遜色ない。どうしてあんなに上手なんだ?)


ナギの疑問にメニュー画面が答えた。



『【眷臣の盟約】の効果です。互いの魂と魔力を密接にリンクするレイヴィア様の【眷臣の盟約】により、セドナ様は、貴方の【食神ケレスニアンの御子】の恩寵スキルの効果を、一部、付与され、料理の技能が上がりました』



「おお、便利」


『そうでしょう。そうでしょう。貴方のレベルアップに伴い、


【食神の御子】


冥王ケレスニアン使者マギス


【眷臣の盟約】


の恩寵スキルの力をもっと活用できるようになります』


(うん。やる気が出た。レベルアップ頑張りますよ。メニュー画面さん)


ナギとセドナは、圧倒的な速度でみるみる内に料理を完成させた。


ナギとセドナがレストランに、カボチャのスープ、グラタン、コロッケを運ぶと一瞬で人だかりが出来て飛ぶように売れた。


バルザック達も他の客も貪るように食べる。


(この調子なら結構もうかりそうだな)


とナギが思う。


(え~と、いくら位の利益になるんだろう?)


ナギが暗算していると、メニュー画面が開いた。



『ジャック・オー・ランタンのスープ、グラタン、コロッケは、それぞれ、500クローナ。

317人分ありますので、売り上げは、158500クローナです。

 しかし、牛乳、タマネギ、その他の、仕入れ材料費が、13800クローナなので、純利益は、144700クローナとなります。

 ただ、冒険者のお客様は『釣りはいらねェ』と見栄を張る方や、釣り銭を貰うのが面倒だと言って、余剰にお金を払う方が多いので、それも計算に入れると予想純利益は、156900クローナになると思われます』



(さすが、メニュー画面。計算、速(はや)! すごいね)


『もっと褒めて下さい、と私は胸をそらしつつ言います』


(胸をそらすって、どうやるんだよ?)


 俺がツッコミを入れるとメニュー画面を閉じた。


ジャック・オー・ランタンの料理が飛ぶように売れ、用意した箱の中にクローナ銅貨が、ジャンジャン、入ってくる。


良かった。暫くは宿に泊まれる。ホームレスになったらセドナが可哀想だしレイヴィア様にも申し訳ないからな。


ふとナギはセドナの方を見た。美しいシルヴァン・エルフの少女が売り子と呼び込みをしているせいで冒険者ギルドにドンドン人が入ってく売る。


冒険者以外の一般人も多数入ってきた。


セドナは一瞬で人を虜にする魅力がある。


俺は誇らしげな思いで微笑した。


妹がいる兄ってきっとこんな気分だろう。


「さて、セドナ。俺達も食べようか?」


「はい」


俺とセドナはレストランのテーブルについて食事をはじめた。カボチャのスープ、グラタン、コロッケ、そしてパンが並ぶ。俺はスプーンをつかむとスープを一口飲んだ。


「うお……」


俺は思わず声を漏らした。


美味い……。口の中いっぱいに、芳醇な香りが広がる。コクのあるカボチャの味が舌と頬に届く。


喉を通過する時幸福感が満ちる。


カボチャってこんなに旨いものだったのか……。


ほのかで上品な甘さ。俺はドンドン、スープを口に運ぶ。


「旨い」


カボチャの味が舌を潤す。脳に届く。コッテリとして、かつ、まろやかな味わい。


薄い塩味がまた堪らない。味が薄めだからカボチャ本来の味が引き立つ。


「美味しいです……」


セドナの尖った耳がピクピクと痙攣している。


グラタンを食べ、パンを千切って口にいれた。


カボチャと生クリーム。そして塩コショウの味が広がる。上品だ。うん。今回の料理はとても上品だ。そして、止まらん。あっと言う間に食べ尽くした。


俺はグラタンを食い終えると、コロッケとパンを交互に食べた。

カボチャのコロッケとパンの味。コロッケパンだ。


これが良い。油が染みる。噛むとジュワリという音がして、口の中で弾ける。パンの味と混ざるのが絶品だ。


ゆっくりと食べることが出来ず貪るように早食いしてしまった。


爺ちゃんに、


「ナギ。お前は、食事を食うのが早すぎる。よく噛んで喰え」


とよく怒られたがこれはしょうがない旨すぎる。


『よくまあ、自分の作った料理を美味しい、旨いと自画自賛できますねェ』


メニュー画面がツッコミを入れてきた。


ふと、俺はメニュー画面の嫉妬を感じた。俺は小首を傾げると、


(もしかして、お前も食べたいの?)


と尋ねた。


『違います! 決して羨ましいわけではありません! 羨ましくなんかないもん! 絶対、違うもん!』


(……羨ましいんだね……)


『違うわい! いらないもん!』


俺はメニュー画面に心から同情した。かける言葉がない……。


『憐憫などいりません! それより、ジャック・オー・ランタンの能力を取り込みました! 確認しろ!』


メニュー画面が、怒るように言う。


『《食神(ケレスニアン)の御子》の権能により、相葉ナギは、ジャック・オー・ランタンの能力を取得しました。


『召喚魔法:死霊騎士(デス・ナイト)の召喚。30体の死霊騎士(デス・ナイト)を召喚して使役可能』


『幻惑:自分よりもレベルの低い敵に一時的に幻覚を見せる』


『精神衝撃波:魔力によって、敵の精神に衝撃を与えて気絶、昏倒、麻痺させる。レベルが上がれば、敵を即死させることも可能』


『命令強制:一定時間、相手に命令を強制できる』


 凄い……。俺は【食神ケレスニアンの御子】の権能に驚いた。なんて、恩寵スキルだ。ここまで簡単に敵の能力を奪えるとは……。


『貴方がレベルを上げれば相手を料理しなくても、魔力、精神、肉体の一部、例えば血液などを《喰う》だけでも、相手の能力を簒奪することが可能になります』


魔力……。精神や、血液?


『そうです』


(どうにも、よく分からん)


俺が正直に思うと、メニュー画面が答える。


『いずれレベルアップと同時に本能的に分かるようになります。ご安心を』


本能的か、なるほど。了解。


『では私は、これにて』


メニュー画面が消えた。


【食神(ケレスニアン)の御子】が戦闘に役に立たないなんて思っていたが誤りだった。


俺はふと思う。


これは……、使いようによっては最強レベルどころの話ではないんじゃないか?


いくらでも無限に強くなり、無限に魔法や能力を取り込んで行使できるようになる。


俺は自分の手を観た。力が漲っている。強くなったと本能で分かる。


武道で修練を重ね一定の技能を習得した時に得る感覚と同じだ。

だが、普通武道でこのレベルまで到達するには数ヶ月から、下手をすると数年の時間がかかる。


だが、俺は食べただけでこの力を得た。


体が無意識に震えていた。


武者震いだ。高揚感と幸福感が胸奥に満ちる。


(俺は強くなれる。どこまでもどこまでも強くなれる)


強さがあれば俺は……。


俺は笑みを浮かべていたのだろう。セドナが少々、不安そうに尋ねてきた。


「あの……、ナギ様。どうかなさいましたか?」


「あ、いや、なんでもないよ」


俺は笑みを消してコホンと咳払いした。


そして、対面に座るセドナを見る。


銀色の髪と黄金の瞳をもつ芸術品のような美少女。力があればこのを守れる……。異世界で出来た、ただ1人の家族を……。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る