第7話 武器
相葉ナギは、セドナを連れて宿屋に帰還した。
「レイヴィア様! セドナを連れてきましたよ!」
俺が叫ぶが返事がない。レイヴィア様は今、交信途絶状態のようだ。
俺はセドナに椅子に座るように促した。
セドナはコクンと醜い顔を動かして頷き、椅子に腰掛ける。言葉が通じるようで安心した。存外、知能が高い生物らしい。
奴隷商人に代金を払い正式に奴隷契約書にサインしたので、現在セドナの所有権は俺にある。
すぐにレイヴィア様とセドナを引き合わせようとしたのに、肝心の大精霊様はどこにいるのだろうか?
俺はベッドに腰掛けた。
少し状況を整理しよう。
今現在、俺は異世界にいる。
そして、この異世界では友人も知人もいない。
これは想像以上にまずい状況だ。
もしかしたら、レイヴィア様に騙されたか?
何か悪意があって、俺にセドナを押しつけようとしたのか?
しかし、その目的が分からない。そんなことをしてレイヴィア様に何の得がある?
俺は軽く首を振った。考えてもしょうがない。
レイヴィア様の言葉が真実だとするならば、いずれ彼女はまた姿を現すだろう。
俺は、ふとセドナを見た。椅子に座る猿のような豚のような生物が俺の瞳に映り込む。
「……あのさ。喉渇いてないか? 水飲むか?」
俺が問うと、セドナは嬉しそうな表情を浮かべて頷いた。凶悪そうな容貌に反して思いの外、おとなしく素直な奴だ。暴れる素振りはいまの所見せてない。
俺はアイテムボックスから水を取り出して、備え付けのガラスのコップに水を注いだ。毒味として俺が飲み、安心させてからセドナに手渡す。
セドナは嬉しそうにコップを受け取り水を飲んだ。なんだか仕草が上品だ。
「少し待っていてくれ。俺は外出してくる。いいか、絶対に俺が来るまで、この部屋を出るなよ? この世界は危険なんだ」
俺が念を押すとセドナが了承の素振りを示す。セドナはけっこう賢い。
「俺の声がしても、ドアを開けてはダメだ。合い言葉は、『山』と『海』。おれが『山』と言って、ノックを三回した後に『海』と言ったら、俺が安全に返ってきた証拠だ。それ以外は絶対に出るな」
セドナは全て納得して唸った。唸り声は、「はい」という意味だ。なぜか、俺はそれが分かった。
「じゃあな。なるべく早く帰るから」
俺は部屋を出た。
◆ ◆ ◆
宿屋の廊下を歩きながら取り敢えず服を買おうと俺は思った。
今の格好は目立ちすぎる。
出来れば武器も欲しい。
「日本刀が一番良いが、あるかな?」
と、異世界に来てから多くなった独り言を出した。
あるわけないよねぇ~。まあ、長剣でも大丈夫だ。なるべく実践的な殺し合いに特化した武器が欲しい。
しかし、この世界の物価はどのくらいだろうか?
レイヴィア様から貰ったお金の半分くらいをセドナの購入費にあててしまったが、まだ金貨が五十枚くらい残っている。この世界での金貨の価値はどのくらいだろうか?
俺は貨幣価値を気にしながら街に繰り出した。
古都ベルンを歩き回り、道行く人々の服装を子細に観察した。
その後、古着屋に行ってこの世界の標準的な服を5着ほど買った。有り難いことにレイヴィア様からもらった金貨の価値は、この世界でも非常に高かった。
さっそく着替えると今度は武器屋に入り、長剣と短剣3本、そして剣帯を買った。
長剣は普段使っていた日本刀と似たサイズの物を買った。剣帯に長剣を吊すと、俺の心に歓喜と安堵が満ちた。
(これで大丈夫だ……)
今の俺には武器がある。少なくとも、犯罪者からは身を守れるだろう。
それに5歳の時から日本刀を使って武芸に励んできたので、この剣をもつ感覚に凄く安心する。
俺は食料を買い込むと、セドナの待っている宿屋に戻った。
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