一日目:いつものふたりで、いつもどおりに
可愛い服を
「なあ、タク。この格好どう思う?」
「どうって……」
ダボダボのシャツ。
ベルトによりかろうじて落ちていないだけのブカブカのズボン。
実に滑稽な格好の美少女だ。
「それはそれはひどい格好だな」
「まさか服を買いに行く為の服がないとはな。タク、女子が泊まりに来た時を考えて女性物の服くらい用意しとけって」
「男の一人暮らしで部屋に女性服があったらそれは変質者だろ」
「あーあー、言っちまったなー……」
抄はやれやれとポーズを取るとわざとらしく溜息を吐いた。
「なんだよ」
「タク、お前は今全国の青少年たちを敵に回したぞ。早く謝っといた方がいいって」
「いや、ボクは間違ってないだろ。彼女と半同棲状態の男ならまだしも、そうじゃない男の部屋に女性服があったら、それは紛れもなくへんた――」
「黙れ童貞!」
抄のローキックがボクの太ももに炸裂した。
しかし魅力にステータスを振りすぎの転生をした抄に蹴られたところで、痛くもかゆくもない。
「なんでそんなにショウが怒って……。もしかして、お前女性服を?」
「いや、俺は集めてないな」
あっけらかんと言い放った様子から、照れ隠しで嘘を吐いているわけではなさそうだ。
抄の性格であれば、集めていたとしてもそれを隠したりはしないだろう。
「ただ、そうだな……タク、女の子は好きか?」
「は? なんだよ、急に」
「いいから答えろって。別にひっかけ問題とかじゃないし、おちょくろうとかそういう意図もないから」
「……まあ、好きだよ。普通に」
「女の子が好きって言うだけで照れるとか、童貞はこれだから……」
「ぐっ! お前……!!」
声が震えていた自覚はあるが、そこを指摘するなんて野暮ではないのか。
しかも女の子の見た目で童貞を煽るなんて……!
おちょくらないと言っていたのに!
「そう怒るなって。俺だって女の子が好きだよ。だって可愛いもんな?」
「まあ、そりゃな……」
「そう、可愛いが好きなのは男も女も変わらない。好きじゃない男もいるだろうが、それは性差じゃなくて個体差だからな。そして、女性物の服って可愛いのが多いだろ?」
「まあ、そりゃあ……」
「つまり、男が可愛い服を集めたいと思うのもおかしいことじゃないんだ。男だって可愛いが好きなんだからな」
「んー……なんか、ショウが正しいような気がしてきた……?」
「その感覚は正しいぜ。なぜなら俺は正しいことを言っているからな。だから、タクは俺が服を買いに行く為の服を買ってきてくれ」
「嫌だよ」
女性服を男性が所有することが変じゃなかったとしても、購入することへの恥じらいが消えるわけではない。
「なんでだよー。それじゃあ俺がこの格好で外に出てもいいのか? 俺の隣を歩けるのか?」
今の格好をした女性とふたりで歩きたいかどうかで言うなら答えはノーだ。
ただ、ボクひとりで女性物の服を買うのはもっと嫌だ。
そんなの童貞には荷が重すぎる。
「それともあれか? 俺にぶかぶかな服を着せて楽しんでるのか? この変態め!」
「どうしてそうなるんだよ!」
「だって前に言ってたじゃないか。彼シャツを着た女の子が可愛い、えっちしたいって」
「そこまでは言ってない……はずだ!」
「はぁ……仕方ない。今の季節にはまだ早いけど、コートで誤魔化すか」
そう言って抄は我が物顔でボクのクローゼットを漁り始めた。
なんだか、まだ出かけてすらいないのに疲れてしまった。
「……なあタク」
「なんだ?」
「お前のコート着ると裾を引きずるんだけど」
「……なんか、雨合羽着てる幼稚園児みたいだな」
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