転がされた生

「へ……?」


 ボクの口から間抜けな声が漏れた。


 当たり前だ。

 誰だってこうなるはずだ。


 ボクの部屋から。

 友人の遺灰の山から。

 赤ん坊の声が聴こえたりしたら。


「なっ、えっ?」


 灰の山が崩れたかと思えば、そこから小さな手が飛び出してきた。

 次第に頭、肩とその小さな生き物は山を崩しながら姿を現す。


 友人の遺体の灰の山から、人間の赤ん坊が這い出てきた。


 赤ん坊は灰塗れの顔をくしゃくしゃに歪ませ泣き叫んでいる。

 はいはいをしていることから、生後数ヶ月は経っているのだろうか。


「あ、赤ちゃんが……どうして……え、あ、はぁっ!?」


 いや違う。

 生後数ヶ月などという話ではない。


 丸みを帯びていた短い手足がすらりと伸び始め、頭皮が見えるほど薄かった髪ももう肩まで伸びている。

 薄く平たい造形をしていた顔も 、目鼻立ちがはっきりして人相が表れている。

 肉体にも性差が表れ、その赤ん坊が女性だということまではっきりとわかるほどに。


 灰から出てきただけでも奇怪だというのに、その赤ん坊は一分も経たないうちにボクと同じ年頃にまで成長していた。


 まだ成熟しきれていないことを示す小さな鼻と口。

 中性的な顔立ちでありながら丸みを帯びた目。

 体格には幼さが残っているが、胸には少女には不釣合いな膨らみ。

 肩にかかる茶髪は、友人の髪色によく似ていて。


 その少女は自身の急成長に思考が追いついていないのか、ぼんやりとした瞳であたりを見回していた。


「この少女を以って証とする」


 骸骨の声がボクの脳を揺らした。


 友人の遺体の灰から生まれた少女。

 間違いなく骸骨の仕業だ。


 そして美少女だ。

 紛れもない美少女だ。

 その一糸纏わぬ裸体に目を奪われない男性はいない。

 万人が恋心を抱いても不思議ではない。


 友人が骸骨の手によって美少女へと転生したことは間違いなかった。


「……ショウ?」


 声をかけると、少女はぼやけた瞳でボクを見つめた。


「?」


 少女は不思議そうな顔でボクの顔を見つめている。

 急成長による弊害がまだ落ち着いていないのだろうか。


「ショウ」


 ボクはもう一度名前を呼んだ。

 すると、ぼやけていた少女の瞳がボクを捉え――


「っ!? きゃあぁぁっ!」


 少女は自身の恥部と胸を隠しながら叫び声を上げた。


「だ、誰っ? あ、あなた誰なんですかっ?」

「え? だ、誰って……」

「そ、それに、ここはどこなんですかっ? 私は何で裸なんですかっ?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。ショウ、ボクがわからないのか?」

「ショ、ショウって誰ですか? 私の名前は……」


 自身の名前を言いかけたところで少女の口は止まってしまった。

 少女の瞳が揺れて、まるで助けを求めるかのようにボクに視線を向けている。


「ど、どうかした?」


 問いかけると、少女は唇を小さく開いて震えた声を絞り出した。


「私……私は、誰?」

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