(二)-5

 エレベーターで一階に着き、ドアが開くとすぐにメインのエントランスに向かおうとした。その際にスキーのナイターから戻ってきた宿泊客の男性二人が乗り込んでこようとしてお互いぶつかりそうになった。粉雪がまだ乗っているスキーウェアの男性が立ち止まり、降りる私を降ろしてくれた。

 その際、その客は「こんばんは」と声をかけてきた。冬にもかかわらず浅黒い顔のしわの彫りなどから察するに、五〇歳代のように見えた。

 私は不自然にならないよう笑顔で挨拶を返し、すぐにエレベーターから降りてその場を立ち去った。すれ違っただけなので、私のことなど多少は記憶に残ったとしても、時間とともに忘れてしまうだろう。しかし、事件がすぐに発覚した場合、記憶が残っていて目撃者となる可能性があった。とはいえ、どの部屋の客かなどはわからないだろうから、問題はなさそうにも思えた。ともかく、その男性の印象に残りたくはなかった。リスクは少しでも減らした方がいいからだ。


(続く)

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