第112話
俺とルーチェは酒場にて、ケルトと交流兼情報交換を行っていた。
「なに……〈幻獣の塔〉で、また〈
ケルトは声を上げて叫んだ後、酒を一杯口にして一気に飲み干す。
その後、大きく頷いた。
「いや、お前らに誘われたとき、俺の〈第六感〉が反応したから嫌な予感はしてたんだ。いかなくて正解だったぜ」
「……ケルトさん?」
ルーチェが眉をピクピクとさせて、ケルトをジト目で見る。
「い、いや、違うんだって! 俺のスキルの〈第六感〉……近くの危険な魔物や宝箱の感知はまあまあ正確なんだが、なんかしようってときの悪寒みたいなのは、ほとんどアテになんねぇんだよ! 俺もまぁ、縁起悪いから今回はパスするか、くらいの気持ちだったからな。こんなんで引き留めて、後々損したってボヤかれても嫌だろ?」
ケルトが慌てて手を振って弁明する。
「……結構あんだよ、そういうの。俺みたいな斥候系クラスはよ。〈聴力強化〉のスキルもそうだ。俺にしかできねぇし、一瞬何か耳に入ったことから、正確に情報を読み取られねぇといけない。確証もなく下手にデマ情報流したら戦犯だ。何か感じた、何か聞こえたって、確信がなきゃ俺が損することの方が多いんだよ」
「なるほどな……」
データが正確に情報共有されているゲーム時代でもよくあったことだ。
この世界であれば尚更だろう。
「自分に都合よく誘導するために嘘流したんじゃないか、なんて勘繰りまでされる始末だ」
ケルトはそう言って、寂しげに窓の外を見る。
何故ケルトが固定パーティを組みたがらないのか、なんとなくわかった気がした。
「ケルトさん……ごめんなさい」
ルーチェが頭を下げる。
「……まぁ、実際、やったこともあるんだけどな、うん」
ケルトが気まずげに鼻を掻く。
「頭下げて損しました。僧侶のメアベルさんにチクっておきますね」
「止めてくれや。ただでさえアイツ、あの後、顔合わせる度にウザ絡みしてくるんだよ……」
仲が良さそうな様子で何よりだ。
最初の二人からは想像も付かない。
「しかし、魔物や宝箱以外にも反応することがあるのか」
それはゲーム時代にはなかった仕様だ。
〈第六感〉は単に、『たまに危険な魔物の接近やレアアイテムの存在を感知してくれる』というスキルだった。
やはり〈マジックワールド〉とこの世界は、限りなく似てこそいるが、非なるものらしい。
ただ、スキルの応用の幅が増しているというか……納得できる範囲ではある。
「……いや、あったのか、この設定?」
確か〈マジックワールド〉の世界で、釣り人のNPCの台詞で『俺の〈第六感〉が囁くから、今日は早めに帰るのさ』というものがあった。
フレーバーテキストが拾われて、辻褄が合わされている……という解釈が一番近いのかもしれない。
この差はものによってはとんでもない影響力を及ぼしかねない。
頭に入れておいた方がよさそうだ。
しかし……なんだろう。
〈第六感〉に、妙に引っ掛かる。
何かを見落としている気がするのだ。
「どうしたんだエルマ? なんか悩んでる様子だがよ。……なんだ、そんな教えなかったこと根に持ってんのか? 悪かったって、逆恨みするような性格じゃねぇのは知ってるし、次がありゃちゃんと教えてやんよ」
「ああ、いや。そういうわけじゃない。悪いことばかりじゃなかったしな。レアアイテムは沢山手に入ったし……それに、ハウルロッド侯爵家とお近づきにもなれたからな」
「なんだと!?」
「魔物からスノウ嬢を助けて、その件で昨日歓待を受けてきたところだ」
「ハウルロッド侯爵家に恩が売れたとは羨ましい……。やっぱ俺も行っておけばよかったぜ。そうすりゃ上手く取り入ってアピールして、私兵かギルド職員に役職持ちとして登用してもらえたかもしれねぇのに」
ケルトが口惜しげに舌を鳴らした。
「しっかし、そうか、噂のスノウ・ハウルロッドに会ったのか。腹黒で冷酷……人形のように喋らない不気味な奴だって話だったが、よく気に入られたもんだな。まぁ、魔物から助けられて、後ろ砂掛けるような真似する馬鹿ではなかったか」
ケルトがカラカラと笑う。
……腹黒で冷酷、人形のように喋らない不気味な奴……か。
二割くらいは当たっているかもしれない。
主に喋らない、の辺りが。
「そういや、ハウルロッド侯爵家で思い出したが……また領主依頼の
ケルトの言葉に、俺は口を閉ざした。
「ある〈
「いや……すまない」
ハーデン侯爵の話していた、例の計画の
『吾輩はもう一度、敢えて
ハーデン侯爵は、都市ラコリナで暗躍している連中とこの
「ケルトはどうするんだ?」
「いや、この依頼はヤベェだろ。〈第六感〉がなくてもわかるぜ。あんな不気味なアイテムが出てきたんだ。お貴族様の政争が噛んでるんじゃねぇか、なんて話もある。どう傾いたって、関わんねぇのが正解だ。お前もそう思うだろ、エルマ?」
ケルトが笑いながらそう話した。
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