第4話

「俺はアレスってんだ。冒険者になりたくて田舎村から出てきたんだが……【Lv:1】でパーティー組んでるのなんて、元々の知り合いばっかりみてぇでよ。せめて【Lv:3】までは単独で上げてる奴じゃなきゃ信用できないって言われて、焦っちまってたんだ。本当に助かったぜ、また改めて礼がしたい」


「俺はエルマ・エルド……いや、ただのエルマだ」


 家名を口にするなと、クソ親父からそう言われていたな。


「礼なんて考えなくていい。丁度いいレベル稼ぎになった。魔石は全部、もらっていくがな」


「エルマか! なぁ、戻ったら二人組のパーティーに入れてもらえる当てがあるんだが、エルマも来ないか? 一人でフラついてたってことは、お前もあぶれてたんだろ? 防御特化のクラスは低級冒険者の間じゃ不人気だろうが……俺は、お前をスゲェ奴だと思う! 絶対他の連中も説得してみせる! 今、助けてもらった恩もできたからな!」


 アレスはぐっと握り拳を作り、熱くそう語った。


「いや、結構だ」


「な、なんでだよ……。今の戦い方、盾クラスなんだろ? 一人でやってたって、一生レベル上がんないぞ? 変な意地張らずに……」


「俺が一人で戦えるところは、今証明したと思うが」


「確かに……」


 アレスの言うことは正しい。

 通常、防御特化のクラスは、敵の攻撃を引き付け、仲間を守ることでその真価を発揮する。

 ただ、俺のやりたいレベル上げでは、ぞろぞろと仲間を連れていれば、経験値が分散されるばかりで美味しくないのだ。


 他の者達が俺の言葉を信じてくれるかどうかも怪しい。

 アイテムやスキル、称号の獲得も行いたい。仲間を何人も連れていれば動きにくいだけだ。


 ……それに、仲間にするならば、探索に特化したクラスか、できることの多い万能型の魔術師クラスがありがたい。

 もっともどちらのタイプも爽快に戦える機会が少ないため〈マジックワールド〉でも使用者は少なく、需要は恐ろしく高かった。

 そう都合よく仲間にはできないだろうが。


「でもよ、今のやり方だといずれ無理が出るに決まってる! 低レベル帯を抜けたら、防御特化クラス一人じゃやっていけねぇ相手ばっかりだ!」 


「やりよう次第で何とでもなるからなぁ……」


 スキルツリーも、クラス固有のものでさえなければ、アイテムや聖職者系のスキルを用いて、新たに得ることもできる。

 〈初級剣術〉と〈防御力上昇〉を捨てて必要なスキルツリーを得れば、充分攻撃性能も補える。

 その自由度の高さが〈マジックワールド〉の人気要素でもあった。

 ……もっとも、スキルポイントは取り返しのつかない要素なので、スキル構成に失敗して引退する人も多かったが。


「エルマ、俺はお前のために言ってんだよ! お前、スゲー奴だよ! だからこそよ、ソロで効率悪く続けようとしてるのなんか放っておけねえよ! ラーナばっかり狩れたって仕方ないだろ? 俺と一緒にもっと上を目指そうぜ!」


 アレスがそう口にしたとき、どさりと俺達の前方に魔物が落ちてきた。


 巨大な蜘蛛である。

 真っ赤な毛に全身が覆われており、全長二メートル以上はある。

 頭部は赤毛であるものの、巨大な口のついた、八つ目の猿になっていた。


「ギィイイイイイイイイ!」


 アランダエイプが、牙の並んだ口を開けて咆哮を上げる。


「う、う、嘘だろ……!?」


 アレスが絶望の声を出す。


 俺は素早く〈ステータス〉で調べた。


――――――――――――――――――――

魔物:アランダエイプ

Lv :16

HP :31/31

MP :11/11

――――――――――――――――――――


 レベル倍の魔物だった。

 ……こういうのに遭遇しないように、都市浅くでやってたんだがな。

 アランダエイプは毒を持っており、素早く、移動妨害の毒を吐く。

 そして攻撃力が高く、気配を隠すスキル〈忍び足〉を持つ。


 どうやらアレスが逃げ回っている間に、アランダエイプを引き付けてしまっていたらしい。

 アランダエイプは好戦的で足が速い。


 〈城壁返し〉も、格下虐めのスキルであって、格上相手にはほぼ無力だ。

 攻撃の直撃を完封しなければ、発動条件を満たせない。

 攻撃完封の条件は、相手の攻撃力の倍の防御力が必要となる。

 同格相手に使えるスキルではない。


 おまけにアランダエイプは〈火炎爪〉のスキルを有している。

 腕の速度を引き上げ、同時に攻撃力を受ける。撃たれればその瞬間にお終いだ。


「さ、さすがに、お前にコイツを押し付けるわけにはいかねぇ……! おおおお、俺が引き付ける! そ、その内に逃げてくれ……!」


 アレスが俺へとそう提案する。

 勇敢な言葉とは裏腹に、言った傍から後悔していそうな程に足が震えていた。


「……いや、俺がやろう。任せてくれ」


 俺の頭の中には、前世で貯め込んだ〈マジックワールド〉の知識が総動員していた。

 レベルだけ分かれば、アランダエイプの他のステータスも全て割り出せる。

 さっきからずっと考えていて、結論が出た。


 この勝負、勝てない相手じゃない。


「む、無茶だ! いくらなんでも! アランダエイプは、新人がどうこうできる程度の魔物じゃない! お前が凄いのはわかったが、物理的にどうしようもない!」


 アレスが顔を真っ蒼にして叫んだ。

 確かに、そう思うのも無理はない。

 これだけレベル差があれば、こちらの攻撃はロクに通らず、逆に向こうの攻撃は全てが致命傷だ。


 だが、俺には〈マジックワールド〉時代の百戦錬磨のデータがあった。


「〈ステータス〉!」


 俺は前へと出ながら〈ステータス〉を開き、スキルツリーの画面を操作する。

 さっき手に入れた【7】のスキルポイントがある。


――――――――――――――――――――

【スキルツリー】

[残りスキルポイント:0]

〈重鎧の誓い[12/100]〉【+7】

〈防御力上昇[0/50]〉

〈下級剣術[0/50]〉

――――――――――――――――――――


 勿論、〈重鎧の誓い〉に全振りだ!


【〈重鎧の誓い〉が[10/100]になったため、通常スキル〈ディザーム〉を取得しました。】


 今俺がアランダエイプに勝つのに必要なスキルだった。


――――――――――――――――――――

〈ディザーム〉【通常スキル】

 斬りつけた相手の攻撃力を短時間の間、一段階減少させる。

――――――――――――――――――――


 こちらが攻撃に成功した場合、一時的に相手の攻撃力を下げるスキルだ。

 正確には、きっかり一分間、【20%】減少させる。

 

「来いよ、猿蜘蛛。俺が相手をしてやる!」


 俺はアランダエイプへとそう叫んだ。

 アランダエイプの八つの目が俺を睨む。


「ギィイイイイイ!」


 ハイリスク、ハイリターン……。

 〈マジックワールド〉でレベルを上げたければ、格上をガンガン狩っていくしかなかった。

 この世界もきっと同じだろう。


「こういうときが一番燃える」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る