第26話 登場 謎の黒猫
「……今、この猫しゃべらなかったか?」
「……うん」
佐藤とシャロールが信じられないって表情で顔を見合わせる。
「猫さん、だれ?」
臆することなくブレサルが質問した。
普通の猫なら、答えるはずないんだが……。
「ワシか……」
ゆっくりと口を開いた猫。
いったいその小さな口からなにが語られ……。
「ワシはお主のひいおじいちゃんじゃよ~!!!」
低い声に似合わない叫びを上げたのもつかの間、ブレサルにとびかかって来た。
「え……!」
「ええ~~~~!?!?」
――――――――――
「一目見てわかったわい。この子がワシのひ孫じゃとな」
しばらくじゃれた後、急に落ち着いた黒猫はブレサルの腕の中でなでられながら語り始めた。
「つ、つまり、あなたは……」
「そう、ワシこそはヒュイの父、ニャンタロウじゃ!」
「ニャンタロウ……?」
初めて聞く名前だ。
だって、手紙には名前が書かれていなかったし。
「そして……お主のおじいちゃんでもある!」
言いながらブレサルから離れ、今度はシャロールにすり寄ってくる。
そして、座っているシャロールの膝上にぴょんと飛び乗……ろうとしたところを佐藤にキャッチされる。
「な、なにをする! 孫とのスキンシップを邪魔すると言うのか!」
「僕のシャロールに気軽に近づかないで……じゃなくて、まだ正体もはっきりしていない猫は危険ですから!」
猫にヤキモチ妬いてるな、この勇者。
それを見透かしたように猫は意地悪く笑う。
「ほほーん。となると、お主が噂の佐藤太郎か」
「は、はい……」
「よかろう。ワシの家に来い。話はそれからだ」
というわけで、一行は運び屋に別れを告げて、通りを歩き出したのだった。
――――――――――
「わー! 猫さんがいっぱいだー!」
「ふふ、そうだな」
町には猫が溢れていた。
ケスカロールの町では、あまり猫を見ない。
どうしてかはわからないが、この世界ではあまり猫を見ない。
もしかすると、猫はこの国に集まっているからかもしれない。
「これなら私も目立たないわね」
猫とのハーフであるシャロールは目立つ。
好意的ではない人間からは、嫌な目で見られることもたまにある。
けれど、この国ではその心配もなさそうだ。
行き交う人は、みんな猫耳が付いているから。
「なぁ、シャロール」
「ん?」
スタスタと歩いていく黒猫についていきながら、佐藤は小声で話す。
「おじいちゃんって、危篤じゃなかったのか?」
「……うん、手紙にはそう書いてあったけど」
「おかしいな……。なにか変なことが起きないといいけど」
なんて、勇者が警戒していると、黒猫が立ち止まった。
「ここがワシの家じゃ」
案内されたのは、日本家屋。
おお、これは藁ぶき屋根の古いお家だ。
「花子ー、ただいまー!」
「し、失礼します」
「お邪魔しまーす」
「こんにちはー!」
各々が挨拶をしながら、玄関の土間で靴を脱ぐ。
ちなみに、日本生まれの佐藤は靴を脱ぐことは知っていたが、シャロールとブレサルは初めてだったようで少し驚いていた。
そうこうしていると、奥から誰か出てきた。
「あら、いらっしゃい。こんなところまではるばるお疲れ様でした」
穏やかな笑顔を浮かべながら出てきたのは、長い黒髪の女性だった。
この人は猫耳こそ付いているが、人間のようだ。
さきほど、花子と呼んでいたのは彼女のことかな?
「さあ、こちらでお茶でもどうぞ」
言われるままに、一家は家の中に入っていく。
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